日記200521・大観先生
日記200521・大観先生
横山大観といえば日本人なら誰も知らない人はいない日本画家の大家中の大家なのだが、じつは戦前、私は父に連れられてこの大観先生のご自宅に伺って先生に直接お目にかかったことがある。多分昭和16(1941)年のちょうどいまごろの季節のことで、私は満五歳だったはずだ。
父の用件は仕事上(海上火災保険業)のことであったようで、私は父に言われたとおり先生にご挨拶申し上げた以外に会話をした覚えはない。上野・池之端のご自宅で、いまは大観記念館になっているはずの純和風のお宅だったことを覚えている。もう一つ、通された部屋が一枚目の写真の部屋だったと見えて、下半分ガラスの障子だったことがかすかに記憶に残っている。でも写真のような先生の笑顔は一切記憶になく、むしろ最後の写真のような真面目な顔しか覚えていないから、ま、わたしの父の用件のないようからすれば当然であったろう。
もちろんその時は大観先生のことなど知る由もなく、ただ「絵描きの偉い先生」と聞かされていたに過ぎなかったと思う。それからかれこれ八十年経つが、この経験は私の学齢前の大切な記憶として、父亡き今となっては、私の胸だけに大切に仕舞われている先生と父と一緒の、かけがえのないセピア色の記憶になっている。□
(写真はネットから借用)