tokyokidの書評・論評・日記

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コラム・わたしのアメリカ観察 9

tokyokid2011-12-09

購買力平価説

 日本からアメリカに来た旅行者は、異口同音に「アメリカの物価は日本に較べて安い」という。とくに食料や衣料など、生活必需品に関してそのように言う。だからアメリカに暮らしているあなたのような人は、生活費が安く上がるだろうから羨ましい、とさえ言う。本当にそうだろうか?
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 たしかに南カリフォルニアの例でいえば、ここは果物の産地だから、オレンジが至るところで採れる。近くのファーマーズ・マーケットで買ってきたオレンジの「中」袋には、大人の拳ほどもある見事なオレンジが24個入っており、重量表示は10ポンド、値段は5ドルであった。ドル百円換算だと円貨で5百円強ということになり、これだけの量のオレンジを日本ではまさか5百円では買えないだろうから、その意味ではたしかにアメリカのほうが物価は安い。これが20ポンド入りの「大」袋だと8ドル足らずだから、値差はもっと大きくなる。手近なところでは、マックのハンバーガーの売値を比べてみてもわかる。
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 旅行者にはわかりにくいかも知れないが、ものには必ず例外があって、アメリカでも医療費や保険料は別である。また人手を必要とするモノやサービスの場合も同じである。これらは日本に較べてはるかに高くつく。さらにブランドものや自動車は(ドル百円で換算しても)同じか、ないしはせいぜいちょっと高目くらいの感覚だ。ではなぜ日本からの大人の旅行者や修学旅行の高校生などが、当地の大型ショッピングセンターの欧米有名ブランド店で、宝石や装身具やバッグなどの高級品に、日本で買うよりも安いと群がって買っていくのか。
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 ドルと円の、異なるふたつの通貨を較べるときに、「為替レート」と「購買力平価」という異なる基準を使うと、結果は異なってくる。「為替レート」は、いまは自由化されて(通貨)市場原理に任されていることになっているが、実情は貿易赤字に悩むアメリカ政府の圧力によって、現在の円高水準に押し込まれているのである。大方ご存じのとおり、平成20年現在の為替レートは、ドル一〇七円くらいである。だからこの人工的なレートを使えば、安い、安いの大合唱になる。これに対して「購買力平価」は、同じものを両国で同じ量を買い、その値差が物価の差とする考え方である。たとえば米10キロ、マックのハンバーガー1個を東京とニュー・ヨークで買ってみて、その差を見る。この方法は品物や場所によって数値がことごとく違うのが特徴だが、いまの日米両国の物価を購買力平価説でエイヤアと大雑把にいえば、ドル二〇〇円強くらいの見当ではなかろうか。
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 これで言えることは、手持ちの円を為替レートでドル換算して持ってきた旅行者にとっては、アメリカの物価は安いということになる。しかし同じ日本人でも、アメリカに住んでアメリカで稼いでその稼ぎでアメリカの物価で生活している人々にとっては、自分の稼ぎ高に対するアメリカの物価は決して安くないと痛感するはずだ。先日生れて初めてアメリカに来た人が「安い、安い」を連発するので、この理屈を手を変え品を変えて説明してみたが、どうしても肌で実感するまでに至らなかったようだった。これが現地での生活感覚であり、日本からの旅行者とは違うところだ。□