tokyokidの書評・論評・日記

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書評・新しい憲法のはなし

tokyokid2006-10-24

書評・★あたらしい憲法のはなし(編集・童話屋編集部)童話屋

【あらすじ】
「あたらしい憲法のはなし」は、一九四七年(昭和二二年)八月二日文部省が発行した中学校一年生用の社会科の教科書である。一九五二年三月(昭和二六年度版)まで使われていたが、一九五二年四月から姿を消した。この復刊本は、実業教科書株式会社が一九四七年(昭和二二年)八月二日同日翻刻発行したものを底本とした。本書の一部には、現行の制度と異なる表記や、現在では不適当と思える表現があるが、終戦直後に執筆されたもので、当時の文部省のあり方を知る上で資料的な意味があるとの判断から、そのままとした。(本書のあとがきをそのまま転載)
【読みどころ】
五十年前、地球は青かった。だが子どもたち、いまぼくたちが住んでいる地球は、ガガーリンが見た青よりも、心なし、くすんで見えないか。(中略)ここ百年、資源の浪費と戦争の惨禍で地球はへとへとだ。もうこの辺で止めないと、千年はおろか百年だって地球はもちそうもない。ぼくたちにできることは三つある。一つは、浪費の抑制。(中略)二つめは大自然と共生すること。(中略)三つめは世界中の国の七十億の人間が、民族や宗教やイデオロギーの対立を超えて、平和に共存する道を探ることだ。(本書のまえがきから抜粋・転載)
【ひとこと】
戦後もいまでは半世紀を超えてしまったが、敗戦にともなって制定された「新憲法」の条文そのものは、いまだにそのまま変更されていない。でも五十余年の間に現実はどんどん進んで、日本は警察予備隊からさらにその発展型で世界有数の戦力を持つ自衛隊を持つに至った。平成十四年の小泉内閣は、長らく海外派遣を見送ってきた自衛隊アメリカに協力するためと称して、国会での論議も尽くさず、法律面も整備せず、したがって国民的な合意もまだ形成されないうちに、アメリカのアフガニスタンイラクとの戦争を応援するために、イージス艦などを遠くインド洋やペルシャ湾に派遣する事態となった。では世界でも非常に稀な、半世紀にわたる不戦の実績を積んで世界にも誇り得る、いわゆる「憲法第九条・戦争の放棄、戦力及び交戦権の否認」の事項は、将来を担うと考えられた当時の中学生であったわれわれにどのように教えられたのか。わずか約80ページのこの文庫本のおかげで、たった五年足らずで姿を消した当時の中学校社会科の教科書を再読することにより、半世紀の時空を超えてその間に起こった世の中や人の心の移り変わりを、いま自分自身で検証することができる。
【それはさておき】
五月三日は憲法記念日。第九条を含めて日本の憲法のあり方を考える絶好の機会だ。当時新憲法がどのように制定されたのか知らない若い人も多いだろう。いったい日本人は日本国憲法をどのように解釈してきたのか。どのように係わりあってきたのか。その結果どのような社会現象が起こっているのか。いまの国会議員の若手には改憲論者が多いといわれるが、「不戦」の憲法の条文は変えずに、法律論でいけば「運用」の妙を発揮して基本的には不戦を掲げたまま平和に貢献する道を探れないか、世界規模で平和のリーダーシップをとることはできないものかなどなど、国民一人一人が日本国憲法を真剣に考える時期にきている。
(TVファン誌2003年5月号掲載原稿)