tokyokidの書評・論評・日記

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書評・アメリカのやり方

tokyokid2006-10-28

書評・★アメリカのやり方(チヒロ・ファイバー著)東洋出版

【あらすじ】
 カナダ人男性と結婚した日本人女性が、2001年9月11日のいわゆる「9・11」の9個月前からアメリカ・カリフォルニア州に移り住み、事件後に起こるアメリカ社会の変化を感じ取り、その主軸となる、アメリカ人口の7割近くを占める白人中産階級の意識と生活ぶりに焦点を当てながら、夫の描くマンガとその妻である著者のエッセイを配して「アメリカのやり方」を考え、できあがったのがこの本である。
【読みどころ】
 著者はこの本を全部で6章に分かち、それぞれアメリカ人、車社会、生活、社会、政治、隣人の感情・・・と名付けて論評する。これらの各章のタイトルからも明らかなように、著者が当てる目線は、庶民の立場からアメリカの庶民を眺める立場に立っていることだ。また本書の「おわりに」で、著者は「この本では、あえてアメリカの悪い面ばかりを取り上げている」と書く。同時に目次より前の扉で「この本が、日本人が持ちやすいアメリカ幻想を打ち砕き、現在のアメリカの姿を正しく認識する手助けになれば」とも書く。著者は日本人であり本書作成に協力したその配偶者はカナダ人であるから、これはアメリカないしアメリカ人を、外からいわば第三者の目で眺めた視点というところが、同様にアメリカに対して本来第三者であるはずのわれわれ日本人と共通するところがミソである。例えば著者は、意外にもアメリカと中国の共通点は多いと指摘して、「他国に干渉するのが好き」「自国文明至上主義」「ご都合主義」「自己礼賛が激しく、反省しない」「拝金主義」そのほかを挙げている。日本人からみると、まことにうなずける点ばかりである。この点にみられるように、じつにこの本の特色は、アメリカを外国人の目で斜(はす)に見た見聞録ということもできる。要するに「アメリカ賛歌」と対極にある「ナマのアメリカが抱える問題点の指摘」に徹したところが、本書の最大の価値を形成している。
【ひとこと】
 評者は南加(南カリフォルニア)に住んでいるので、本書に取り上げられたいろいろなアメリカまたはアメリカ人の現象や事例には日常的に接しており、著者が述べる内容を容易に理解することができる。気にかかるのは、留学生などの立場でアメリカ、それもアメリカ内部ではいろいろな意味で偏向傾向の激しいこの南加で生活して、これでアメリカを見た、聞いた、試した気になっている日本の若者が多い、ということだ。周知のことだが、メキシコ戦争の結果アメリカ合衆国編入されたカリフォルニアと、最初に立ち上がっていまは東部エスタブリッシュメントの本家である最初の独立13州と、アメリカ唯一の国内戦争であった南北戦争に勝ってわれこそがアメリカを代表する地域だと思い込んでいる人が多い中西部とでは、同じアメリカでも地域性が大きく異なる。加えてアメリカ建国の過程で、地元のインディアンを始めとして、イギリス、フランス、スペイン、メキシコ、ハワイ、フィリッピンなどとの争いや、モンロー主義に代表されるアメリカの引きこもり事例や、欧州系には移民先として開放しておきながら日本人や中国人など東洋系への閉鎖的・差別的な移民政策や、第二次世界大戦のとき日系アメリカ人だけを強制収容所に隔離した(白豪ではなく)白米主義事例など、たった250年の歴史のなかにも、これでもかというくらい、アメリカの表看板である民主主義や法と正義に基づかない歴史上の事実がある。それなのに、かってアメリカには、日本人を差別した排日土地法があったし、日系アメリカ人を強制的に閉じ込めた強制収容所キャンプがあったことを聞いて「アメリカは日本にそんなことをするはずはない」と叫んだと伝えられる日本からの留学生などには、まず本書をぜひ読んでもらいたいと思う。
【それはさておき】
 日本の敗戦に終った第二次世界大戦後の60年は、日本はあらゆる意味でアメリカ一辺倒であった。そうならざるを得なかった事情もあるし、日本国民が進んでそのように仕向けた面がまったくなかったともいえない。日本では5年間続いた小泉政権が、このほど安部政権に変わったが、小泉時代の日本政治の最大の特徴は、(国民的な議論を経ることなしに)イラク自衛隊を派遣した海外派兵と、さまざまなアメリカ追従政策であろう。首相になる前に、小泉首相はこの本を読んでおくべきだったし、安部新首相にもそうしてもらいたい、と思うのだ。古人曰く、敵を知り、己を知れば百戦危うからず、と。まず相手を知らないことには、話にならないのだ。□