tokyokidの書評・論評・日記

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書評・謝らないアメリカ人 すぐ謝る日本人

tokyokid2006-08-29

書評・★謝らないアメリカ人 すぐ謝る日本人(高木哲也著)草思社

【あらすじ】
日本とアメリカの違いに関して、アメリカ在住のビジネスマンが、具体的な観察とデータを駆使して縦横に語った書。著者の豊富なアメリカにおける生活とビジネスの経験は、日米間に横たわる認識の差つまりパーセプション・ギャップを明らかにした。目次から、習慣、教育、家庭、ビジネス、社会と経済の五部構成。
【読みどころ】
ビジネスマンの著者は、これらの分野ごとに、豊富な実例によって、そのパーセプション・ギャップを鋭く指摘する。認識の差を指摘するということは、認識にいたる過程の背景もえぐり出すわけで、アメリカ人と日本人では、その認識に至る思考の背景がどのように異なるかについても言及される。いわば両国民の最大公約数的なものごとに対する「傾向と対策」の性向が示されるわけだが、現実のデータを読者の目の前に提示することによって、理論を強化する努力を著者は忘れていない。たとえば、「第3部・家庭」の「アメリカのベビー・ブーマー」の章で著者は、いまや社会の中核を担う年代のベビー・ブーマーたちについて、副題の「老後を心配するようになった人たちの生活と意見」を各種のデータを示しながら、浮き彫りにしてみせてくれる。日本でいえば戦前・戦中派に対する戦後派の違いということだが、両派の考え方の違いから市民としての性向の差を、もちろん日米の差をも視界に入れつつ、うまく把握して読者の目の前に取り出して見せる。実際にアメリカで生活しながらビジネスや学習にたずさわる日本人には、現実に接触しなくてはすまされないベビー・ブーマー世代アメリカ人のものの考え方を理解するのに、これほど助けになる項目はない。
【ひとこと】
いまや海外在住の日本人の数は八四万人を超え、そのうち三一万人以上がアメリカで生活するというが(海外在留邦人数調査報告・外務省・二〇〇一年度)この人数は外務省の在外公館に「在留届」を提出した日本人の数なので、実際に滞在する日本人はもっと多い、と推定される。それほどの数の日本人のうち、初めてアメリカにきて、家族をかかえて生活を満足に滑り出させ、会社では現地のアメリカ人従業員との慣れないやりとりに心身をすり減らす人も少なくなかろう。留学生として日本とまったく違うアメリカの学校で学ぶ者にとっても、学校のシステムや教授や同級生との人間関係について同じような悩みがつきまとうはずだ。そのときこの本を開けることによって、的確な情報とその背景となる考え方を学べば、「敵を知る」ことになって「百戦危うからず」の立場に自分をもっていく大きな助けになることは疑いない。
【それはさておき】
本書の「第5部・教育」では、「得点主義と減点主義」について語られる。比較するのも愚かながら、まったくの偶然で、TVファン二〇〇〇年三月号の「日米ビジネスの温度差」で、木村敏和氏の同じ表題の記事が掲載されていた。しかし現実に高木哲也氏の考察のほうがはるかに深く中身が濃い、といわざるを得ない。
(TVファン誌2002年5月号掲載原稿)