tokyokidの書評・論評・日記

tokyokid の書評・論評・日記などの記事を、主題に対する主観を明らかにしつつ、奥行きに富んだ内容のブログにしたい。

書評・四字熟語博覧辞典

tokyokid2007-12-03

書評・四字熟語博覧辞典(真藤建志郎著)日本実業出版社

【あらすじ】
 著者は昭和9年(一九三四)生れ、新聞記者から出版界に転じ、漢和辞典、名言辞典、ことわざ辞典などを数多く企画・編集し、この方面の著作も多く持つ人である。本書は「総索引」「名言索引」から始まり、熟語の内容により十五に分かれた「本文解説」から、巻末付録として「出典」「主要人物」「中国歴史年表」「中国歴史地図」「千字文通解」などがついている。主として漢文に出典がある「四字熟語」を約3千語収録してある。著者が「凡例」のところで「日本語として定着し、現在も常用される四字熟語」「語義の解釈は(中略)語源由来の歴史的背景を含め、できるだけ詳細に記述」と記すだけのことはあって、体裁も見やすく、引きやすく、使いやすい「四字熟語」の辞典である。
【読みどころ】
 読者がこの辞典を使って「四字熟語」の意味を調べるとすると、まず取り掛かるのは「総索引」「名言索引」の項からであろう。これらの索引は、この種の辞典として当然のことながらじつに懇切丁寧に作られていて、読者の役に立つことは疑いない。本文は熟語の内容により十五章に分かれていると前述したが、それらはたとえば第一集の「開巻有益・白眉名言の巻」から始まり、最終第十五集の「慣用成句・特筆大書の巻」に至る。うまく四字熟語の内容を掴んで分類してあるので、辞典としてだけではなく、読物としても一読措く能わざるものがある。たとえば第四集「有朋遠来・友情厚誼の巻」では、「有朋遠来」「益者三友」「巧言令色」「毀誉褒貶」「阿諛追従」など約二百の四字熟語について解説してある。一項目についての記述は、大型ポイント活字による見出し(=四字熟語)が上段に並び、下段に普通ポイント活字による解説が施してある。目の悪い人にも引きやすい辞典である。
【ひとこと】
 もし読者がこれら日本では漢字輸入以来一千年以上にわたって使われてきた「四字熟語」を理解し、日常の用に役立てようと思えば、現在文部科学省が定める常用漢字約2千字ではとても足りないことを痛感するだろう。戦後文部科学省法務省などの役所が「当用漢字」「人名用漢字」「常用漢字」などにより合計約3千字の漢字使用を定めて現在に至っているが、日常使用する漢字の数を減らすことによって、学生の学習の努力は軽減されたかも知れないが、その代償として豊潤な意味を持つ多様な日本語の特質がみごとに失われつつある。昨今の日本語文章に見るごとく、日本語は「痩せて」しまったのだ。豊かな自らの文化を放擲するような愚は犯すべきではないと思うが、現今新聞紙上などに横溢する「カタカナ語」「省略語」「本来の用法と異なった用法の熟語」などを見るにつけ、いまから百年後の日本語は更に痩せ衰え、乱れて、第二次世界大戦の戦前まで続いた豊潤な日本語が見る影もなくなっているであろうことを、評者は平成のいまから予告するものである。評者の意見では、このことこそが戦いに敗れた一国の文化が、もののみごとに壊滅していくひとつの過程・現象なのであろうと思う。
【それはさておき】
 本書では巻末の付録中の「千字文通解」に約十五頁を割いて、四字熟語の元祖である「千字文」の解説に力を入れている。書道の世界では「三體千字文」として「楷書・行書・草書」の三體の文字の手本があるが、この基が「四字熟語」の元祖といわれる「千字文」なのである。公立高校の授業から「漢文」「書道」が消えて久しいいま、「四字熟語」や「三體千字文」について何を言っても、滅び行く日本特有の文化美への挽歌にしかならないであろう。このことは、かねてからの評者が見通す、今世紀中には起こるであろうところの、我が国が独立性を失って、他国の傘下に入らざるを得ない状況の必然性を側面から補強する役に立つことを考えると、暗然とせざるを得ない。たしかに国破れて山河は残ったが、その山河は宮崎のシーガイアに見られるごとく、江戸時代に植林された防風林も含んで、外国(資本)の手に任され、場合によっては蹂躙されていくのである。これが文化面において起こったことの典型例が「常用漢字」の設定であり、戦後すぐの「GHQによる仇討ち文学・演劇禁止令」であり、一九九〇年代の「ビッグパン以降」の経済混乱である、と評者は見る。□