tokyokidの書評・論評・日記

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書評・交渉術

tokyokid2006-08-24

書評・★交渉術(ラリー・クランプ著・棚橋志行訳)文芸春秋社

【あらすじ】
 副題に「任天堂、大リーグを買う」とあり、この本はその副題のとおり、ジャパン・バッシング環境下の一九九二年に、任天堂がかずかずの困難を排して、大リーグのシアトル・マリナーズの旧オーナーからの買収に成功するまでの、タフで完璧な交渉過程を明らかにした。アメリカとのビジネスに係わる日本人ビジネスマン必読の書である。

【読みどころ】
 パッと咲いてパッと散る桜を国花とする日本では、いさぎよい態度をとることがその人の評価を高め、よい結果を生むことが多い。一方契約社会の欧米諸国にあっては、過程よりも結果が重要視され、よい結果を生むためのねばり強い交渉に最大の努力が傾けられる。ビジネスの交渉ごとに於いてもとかく淡白であきらめも早い日本人にとって、外国人との交渉とはかくあるべし、という国際ビジネス・ノウハウ満載の書。

【ひとこと】
 人気凋落して本拠地・シアトルでの経営維持が困難となった旧経営陣指揮下のマリナーズを、日本資本の任天堂が買収しようとしたときに次々に出現する困難をどうクリアしたか、詳細を極めたドキュメンタリーが展開される。なかでも大リーグを管理するアメリ野球機構コミッショナーズ・オフィス)が、日本企業の大リーグ・チーム所有に難色を示す場面での駆け引きが圧巻。ビジネスとしては、友好的な地元関係者を引き入れて買収交渉軍団を編成するところが一番重要なポイントだが、そのノウハウこそがアメリカでビジネスをすすめようとする日本企業の担当者にとって、またとない情報であろう。交渉の各段階で交わされる確認書、契約書のたぐいは、法律の素人が直接担当するには荷が重すぎる作業で、ここは専門家である弁護士の出番である。このような交渉は交渉自体に巨額な資金を必要とする。カネがすべて、とも評される資本主義の特徴をつかんで、敵を知り、己れを知って交渉体制をつくることが先決なのだ。交渉はそれからだ。

【それはさておき】
 その後のシアトル・マリナーズには、日本球界から佐々木投手とイチロー外野手が加入して、二人の活躍によりその人気が地元のみならず全米のみならず日本にも大々的に及んだことはご存じのとおりだ。将来日本のプロ野球は、アメリカのマイナー・リーグの地位に甘んじることになるのではないか、という見方も根強いが、そうなるかならないかは、日本のプロ野球機構(コミッショナー事務局)がこれからどのようなビジネス執行上の施策を講じるか(または講じないか)が重要なキー・ポイントとなるだろう。(TVファン誌2002年2月号掲載原稿)