tokyokidの書評・論評・日記

tokyokid の書評・論評・日記などの記事を、主題に対する主観を明らかにしつつ、奥行きに富んだ内容のブログにしたい。

コラム・わたしのアメリカ観察 17

tokyokid2012-02-21

野球名言集

 前回の「ケムに巻く話・野球篇」が好評だったので、その続編として野球名言集をお届けしよう。
 ご存じのとおり、野球はアメリカの国技である。日本には比較的早い時代に入ってきた。明治になると、対抗試合が盛んにおこなわれた。アメリカ人は野球というスポーツをとても誇りにしている。この点同じ国技でも、大相撲を日本人が八百長だ、やれ旧式の経営形態だとみずから貶めて価値を下げているのとは、根本的にちがう。
 私の友人に、日本のプロ野球球団の代表を務めたあと大学教授になった人がいる。その人から教わった野球の名言を記す。

その一・ケーシー・ステンゲル
 勝つためには27個のアウトをとらねばならない。

その二・同
一晩中、女と一緒にいたって、プロ野球の選手にはなんの害もない。害があるのは、徹夜で女を探し回ることだ。

その三・同
ある時、ワシントンの人が写真を持ってきたので、私は”学校で勉強しなさい”と書いてサインをしたが、相手を見たら、その人は78才だった。

その四・同
うちのキャッチャーは、球を投げることはできるが捕れないやつ、捕れるけども投げられないやつ、打つことは打つんだが、投げることも捕ることもできないやつだ。(1962年メッツの監督のときメッツの捕手について)

その五・同
1918年、ピッツバーグ・パイレーツの外野手時代、なぜすべらなかったかと監督に言われたときの、ステンゲルの弁解。「私が今もらっているサラリーでは、いまにも飢え死にしそうで、もし思いきって、すべったりしようものなら、電球みたいに、バラバラになってしまいます」

その六・ヨギ・べラ(ローレンス ピーター ベラ)
野球では、君はなにも知らない。

その七・ポール・ギヤリコ(スポーツ・ライター)
野球ほど原因と結果、罪と罰、動機と結末がはっきりと定義できる、整然として、劇的にまとまったゲームはほかにない。

その八・ボブ・チガー(作家、「野球の声」著者)
他のスポーツ バスケットもフットボールも時間が決まっていて、せかせかしたスポーツである。野球は悠々としたスポーツで、時間を止めることもできる。

その九・デーブ・アンダースン(NYタイムズのコラムニスト)
キユーバのフイデル・カストロについて:カストロはライト ハンデッド ピッチャーでレフト ハンデッド シンカー(左翼思想家)。   

その一〇・水原 茂(巨人監督)
 上記のケーシー・ステンゲルと似た発言で、彼はこう言った。「プロ野球選手にとって酒もバクチも怖くない、プレイにたいして害はないが怖いのは女である。なぜなら女は選手の心を害する」。

 ・・・・・このほかに、この種の言葉を集めたいい本がある。共著でいずれも日本のプロ野球にかかわった人たちが書いた本だ。それは「野球は言葉のスポーツ・伊東一雄/馬立勝共著・中公新書」だ。一読をお勧めする。

 よく日本のものは「野球」、アメリカのものは「ベースボール」だと言われる。日米の野球に差はあるのだろうか。上述の大学教授は、次のエピソードを引いて、その差を説明する。

 現デトロイト・タイガースのオーナー・マイク・リッチはミシガン州デトロイトの生れであるが、子供のときからタイガースの選手になることを夢みていた。そして高校卒業と同時にあこがれのタイガースへ契約金5000ドルで入団することができた。でも大リーグの選手になることはできず、マイナー・リーグ選手時代にピザ店でアルバイトをした。その縁でプロ野球引退後ピザのチェーン店に就職し、のちに全米第四位の「リトルシーザー店」のオーナーとなる。そしてタイガースのオーナーになることを目指したが、業界二位の「ドミノピザ」のオーナー・トム・モナハンにその地位をさらわれてしまった。だが1992年に、やっとタイガースのオーナーになることができた。オーナーとしてのマイク・リッチの経営手腕とその結果は次のようなものであった。
2002年、デーブ・ドムブロウスキーをGMに迎えた。
2003年、デトロイト・タイガースは43勝119敗でアメリカン・リーグのワースト記録を更新した。
2006年、ジム・レイランドを監督に迎えた。レイランドの野球経歴は1964年にプロ入りしたが大リーグの経験はなし。17年間マイナー・リーグ球団の選手、コーチ、監督を務めた。しかし1997年ドムブロウスキー GM とコンビを組んでその年フロリダ・マーリンズをワールド・シリーズで優勝させた。その2006年、チーム創設106年目にデトロイト・タイガースがこのコンビで優勝した。

 そのときの優勝インタビューでレイランドは「自分の夢を果たしたわけではない。私の夢は監督としての優勝ではなく、大リーガーになることであった」とコメント。またそばでオーナーのリッチも「私も夢はオーナーでなく、大リーガーになることであった」とコメントした。

 これらのことから、アメリカの野球はアメリカ人にとって「夢」の対象であることがわかる。大リーグの選手になること自体が大変な名誉なのであり、選手になれなくても努力次第でオーナーなどの形で野球にかかわっていくことができる。これこそがアメリカン・ドリームの具体的な表れでなくてなんであろうか。日本のプロ野球が、親会社の宣伝の道具に成り下がっている現実を見るにつけ、アメリカのプロ野球は(誰でも努力次第で参加することのできる)全アメリカ人の夢の対象である。ここが両国間の野球の決定的な「差」なのである。□

*写真はアメリカ・大リーグの公式記録集「Total Baseball 第六版・トータルスポーツ社刊」の表紙で、毎年シーズン終了後に更新される。とても大部な書籍で、広辞苑と同じくらいかそれ以上の大きさと重さの一冊の本である。これでいままで大リーグに所属した全選手の全記録がわかる。□