tokyokidの書評・論評・日記

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日記121112・新宿トラッドジャズ祭

tokyokid2012-11-12

日記121112・新宿トラッドジャズ祭2012
 今年の秋も新宿で伝統ジャズのお祭りがあったので行ってきた。英語では Traditional Jazz Festival という。今年で12回目を数える息の長い企画だ。週末の新宿三丁目の居酒屋などいくつかの店に参加してもらって、たくさんの伝統ジャズの楽団がそれらの一軒一軒の店を回って演奏する。ファンは入場券を買って気に入った楽団が演奏する各店に入場する、という趣向だ。
 この「伝統ジャズ」の直訳は「Traditional Jazz」だろうが、これはもともと「Dixieland Jazz」と呼ばれていた古いジャズだ。「Dixieland」とはアメリカの深南部と呼ばれるルイジアナ州など南部諸州を指す。1803年当時にアメリカ合衆国がフランスから買収した(南部の)諸州のことで、当時そこではフランスの紙幣が流通しており、10フラン紙幣に大きく(フランス語で10を意味する)「Dix」と書かれていたので、その地方が Dixieland と呼ばれるようになった。
 Dixieland Jazz は別名 Happy Music とも呼ばれる。発生は南北戦争が終わったあと、民間に放出された軍楽隊の楽器を手に入れたルイジアナ州ニューオルリーンズの黒人やクレオールと呼ばれるフランス人と黒人を含む現地人の混血のひとびとが演奏を始めたといわれる古いジャズなのだ。これが「伝統」となって、20世紀に入るとこの伝統ジャズをもとに発展したスイング・ジャズが幅を利かせるようになる。そのあと「Modern Jazz」などを経て現在のジャズ音楽に辿り着く過程については、読者諸賢のほうがよくご存じのことだろう。Dixieland Jazz はもともと陽気で楽しい音楽が主なのだが、当時奴隷から解放されたばかりの黒人の激しい労働による厳しい日常の生活を歌った悲歌ともいうべきしみじみとしたいい曲もたくさんある。彼らはしばしばキリスト教の讃美歌をも題材としてこれらの伝統ジャズを作り上げていった。
 21世紀に入って、おひざもとのアメリカではこの Dixieland Jazz はもうすたれてしまって、街でもラジオでもこの Dixieland Jazz Band が演奏することを聴くことはめったになくなってしまった。つい3,40年前までは、ラジオのFM局で Dixieland Jazz 専門の局があったほどだったのだが。いまでは、いつ行ってもこの種のジャズを聴けるのは、遊園地の Disneyland くらいになってしまった。でもアメリカ以外の国では Dixieland Jazzは意外に盛んで、欧州でも日本でもこうして Dixieland Jazz 専門の楽団がいくつも活動している。この日新しい試みで「トランペット・サミット」という臨時編成のバンドがこの伝統ジャズを演奏したが、なかなかのものだった。トランペットのソロ・プレヤーを6人集めて、リズムセクションは基本のピアノ、ベース、ドラムスの編成で即興的な演奏だったが、こうした演奏はこうしたお祭りのときにしか聴くことができない。これほどの演奏は、もはやアメリカでも聴けなくなってしまったのかも知れない。大いに楽しませてもらった。
 写真は祭の前に路上で演奏して景気をつけるひとつの Dixieland Jazz Band。また最後に Dixieland Jazz の名曲の数々を収録したLPジャケットもご紹介しておく。シドニー・ベッシェとキッド・オリーのもの。