tokyokidの書評・論評・日記

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論評・羅府新報「磁針」コラム・左様奈良

tokyokid2011-03-27

題名・左様奈良
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 ついにその時がきたようだ。「その時」とは日本に帰る日のことである。私は日本人でアメリカ人ではないし、アメリカ人になりたくもない。短くなった人生残りの時間を考えて、動けるうちに帰国することにした。
 当地の友人は、日本人がアメリカを去って日本に帰る決心をする際には、主として三つの要素がからむという。「英語」「運転」「和食」の三つである。私は卑近な例で、完全な日米両語バイリンガルで生涯を過してきた人が最晩年に差しかかるや生れ故郷の言葉しか話せなくなった実例を見聞している。またくるまを運転しなくては日常生活も覚束ないここアメリカの状況も知悉している。さらに人は齢を取ると味覚の嗜好が子供時代に帰るという。これら全部が私に当てはまる。英語は病気のときに(医者はともかく)看護・介護人との病状説明のための会話にも事欠く。運転は古稀過ぎて人生で初めての交通(一時停止)違反キップをもらってしまった。そして日本の佃煮やわさび漬や梅干や、おふくろの味に代表される家庭料理の味に全面的に回帰しつつある。現役で働いていたときは、あれほどアメリカのステーキやクラム・チャウダーやアイスクリームが好きだったのに。
 日本に帰ったら、趣味の川柳を苦吟しながら思い切り温泉に浸かって、てんぷらと蕎麦を食って、竹馬の友と時間を気にすることなしに来し方や残り少ない行く末を語り合いたい。マニフェストを反古にしつつある新政権・民主党を引合いに出すまでもなく、アメリカに比べて日本が特別優れている国であるわけがない。それでも私は生れた国・日本に帰りたい。
 早いもので、羅府新報の磁針コラムとは、一九九六年一〇月以来、十三年半のお付き合いになる。その間読者諸賢からはひとかたならぬ励ましの声をいただいた。衷心から感謝申し上げる。皆さまがたのご健康とご多幸をお祈りしつつ筆を措く。長い間有難うございました。□
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【蛇足】
 こうして意外に長期間続いた私の世界最大日米バイリンガル日刊紙・羅府新報の「磁針」コラムの連載が終わった。そしていま帰国後約10個月である。このたった10個月間ですら、私の周辺は慌ただしく動き、私たちの生活は揺さぶられた。曰く記録破りの猛暑だった日本の2010年の夏、曰く記録破りの円高(帰国時の113円程度から2011年3月17日・76円台)。曰く記録破りの大地震(東北大震災・マグニチュード9.0)、その大震災による東電福島第一原子力発電所の被災による放射能拡散など。このときは津波が大きな追い打ちをかけた。東電福島第一の防波堤は5.7メートルの津波を想定して作ったものであったそうだが、東北大震災のとき実際に襲った津波の高さは14メートルを超えたものであったということだ。荒廃的な被害がでるのも当然のことであった。そして外憂事項としては、中国の尖閣諸島略取の動き、韓国の竹島占拠、ロシアの北方四島の不返還宣言。内憂事項としては、なんら将来展望のない民主党の当分続く政権担当。こちらのほうが、本質的には日本の大問題であることに異論はない。
それでは今後の展開はどのようなものになるだろうか。
 ずばり私は、今世紀中に日本は独立国ではなくなると思う。チベットなどと同様に中国の属国になるか、その際ロシアも分割に加わっていまの北朝鮮と韓国と同様日本も2分割か、それとも結果としてはいちばん無難と思われる、アメリカによる51番目?の州となる合衆国編入、またはプエルトリコ同様の保護領編入か。状況はアメリカが中国と日本を秤に掛けて、どちらがアメリカの国益に叶うか判断を迫られるときに明白になると思う。アメリカが中国に勝つには核を使わざるを得ないが、核を使って世界から非難を浴びせられてまで日本を守るのと、日本を捨てて中国と協同歩調をとるのと、どちらがよりアメリカの国益になるか。その最終的な決断をする日がくるまでは、はっきりしないこととは思うが、現実はともすると予想外の方向に急激に向かうことがある。私はこれら私の予測がことごとく外れることを願ってやまない。
 だがかつてインドの独立の志士ガンジーは、インドが英国から独立した際に「インドはもう二度と再び被植民地には戻りたくはない。しかしどうしても戻らなくてはならないなら、やはり英国がいい」と言ったと伝えられる。私は近々この言葉を、インドは日本、英国は米国に置き換えて、声を大にして言わなくてはならなくなるかも知れない、と思っている。もうすぐそこに来ているかも知れないこの国の多難な将来を考えると、とてつもなく悲しい。(完・110327)