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論評・羅府新報「磁針」コラム・カーガイが去る【090402掲載原稿】

tokyokid2009-07-17

題名・カー・ガイが去る
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 20世紀はある意味で自動車の世紀であった。この一〇〇年間で、自動車は今見られるようにいつでもどこでも、A点からB点まで人や貨物を乗せて移動できるようになった。もちろん道路やガソリン・スタンドなどのインフラが整備されることも必要だったが、自動車そのものの進歩も必須だった。走る、曲がる、止まるの基本性能もさることながら、メンテナンスや修理も程度の差こそあれ、長時間手をかけずより経済的かつ快適に走り続けることが求められた。世界中で自動車が増え続けた結果、こんどは環境破壊の問題が起ってきたのは読者諸賢がご承知の通り。これからの自動車は「環境」の観点から大きく変らざるを得ない。
 このようなときに、アメリカでひとりのカー・ガイが現役を去ることになった。ゼネラル・モーターズ社(以下GM)の副会長で、同社の全世界の新車開発を統轄していたボッブ・ルッツ氏が4月1日付けで現職を退く、と報道された(オートモティブ・ニューズ誌2月16日付)。同氏は二〇〇一年にGMに迎えられたが、その前はクライスラーを率いてアメリカのくるま作りのベテランとして知られていた。クライスラーメルセデスに買収されたのでGMに移ったわけだが、このあと今日まで、同社のくるま作りに大いに貢献したといわれる。同氏は、本年中はGMに留まる模様だが、これでビッグスリーと呼ばれるアメリカの自動車3社から、くるまそのものに精通した「カー・ガイ」と呼べる最後の最高レベルの経営者が姿を消す。すでにフォードのCEOは航空機メーカーの出身、クライスラーは建材ディーラーの出身である。
 いままでくるまを趣味の対象とするマニアは多かった。これからは環境対策車しか生き残れなくなるだろう。そうなれば、たとえば電気自動車は遊園地やゴルフ用のカートのように、新規参入がたやすい製品だ。自動車を作るのにくるまに精通する必要がなくなるのだ。するとこれからの自動車は否応なく洗濯機や冷蔵庫のように(趣味の対象とはならない)ただの耐久消費財としてしか認識されなくなる時代がくるだろう。最後のカー・ガイが業界を去るこのときに、ビッグスリーはそろって存続が危ぶまれるほどの経営の危機にある。□
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