tokyokidの書評・論評・日記

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随筆・駐在員今は昔(その三)【EWJ070901掲載原稿】

tokyokid2009-02-16

駐在員今は昔(その三)

 日本でもアメリカでも、売掛金の回収には苦労がともなう。悪質な客は、いろいろな理由をつけて支払いを延ばそうとする。悪質でなくても、支払いは先であればあるほど客に有利だ。でも相手の言い分をすんなり受けていては、自分の会社が倒産してしまう。そこであの手この手で早期回収を目指すわけだが、所変れば品変る。
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 ある客先の売掛金が未入金の状態がずっと続き、本社からトクソクを受けて困り果てたC氏は、ある日ついに客先の担当者に向って「担当の君とこれ以上話しても同じことの繰り返しだから、今日は部長と話させてくれ」と、相手の部長職とかけあいに入った。部長は「それは申し訳ない。来月はきっと支払うから」と言うので待っていたが、結局は支払いはなされず、また未入金の状態が続いた。次は担当役員と交渉すると、相手は「私が間違いなく支払い手続きをします」と約束した。しかしこの月も支払いはなされず。
 最後の手段としてC氏は、社長を呼び出し交渉すると、社長は「まことに申し訳ない。来月は間違いなく支払います」というが「だめです。いままで三度も約束を破られたのだから今週中に支払ってほしい」と頼むと社長が言うには「私は社長ですよ。いままであなたが交渉した相手はみな私の使用人です。今回は社長の私が約束するのですから間違いありません」というので、また待つことにした。
 この会社は利益を出している会社なので、C氏はもう一度来月まで待つことにしたのだ。だが翌月も支払いはなかったのでふたたび社長に「先月社長のいうことを信用しろというから待ったがまたもや支払いはなかった。おたくの会社は利益も出しているし、どうして支払わないのですか?」と訊いたところ、「たしかにわが社は利益を出しているが、おたくとの今回の取引に関しては、当方の客先が代金を支払ってくれず、当社としては赤字なので支払いが延びているのです」との返事が返ってきた。
 C氏は「それなら裁判に持ち込みます」と宣言して、自社の顧問弁護士に提訴を依頼した。裁判の前段階で双方の弁護士が話し合うと、いままで支払い交渉に半年もかかっていた案件が、あっさりと弁護士同士の一回の話し合いで支払われた。理由は相手の弁護士はフロリダの田舎弁護士、当方の顧問弁護士はニューヨークの一流の弁護士だったため、先方の弁護士が逆に客先を説き伏せ、支払いを承認させたためとわかった。要するに弁護士の格の違いであった。
 それから二年後、C氏に最初の担当者から電話がかかってきた。「私を覚えていますか?」というから「忘れるわけがありませんよ。あのときおたくが支払ってくれなかったばかりに、私の立場がどんなに悪くなったかわかりますか?」と言うと、相手はすまして「そうでしょう。それは大変でしたね。それで今回はあなたに社内で名誉挽回の機会を与えるべく、新規注文の電話をしております」としゃあしゃあとのたまわれたのには、C氏も唖然とするほかはなかった。
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 アメリカ人の辞書には「恥ずかしい」という言葉はない。でも日本人の辞書には「カエルのツラになんとやら」という言葉があり、いまだに死語になっていない。□
【EWJ はハワイ州で発行の情報誌 East West Journal のこと】