tokyokidの書評・論評・日記

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書評・現代用語の基礎知識

tokyokid2007-10-01

書評・現代用語の基礎知識自由国民社

【「現代用語の基礎知識」とは】
 最初におことわりしておくが、評者の手許にある「現代用語の基礎知識」は、創刊40周年版を謳う1988年版、つまりいまから約20年前の古いものなのである。すると本書の創刊は1948年、つまり戦後間もなくの昭和23年ということになる。この版では、裏表紙に「時事・国際問題から学芸・科学・レジャーまで」「常設145部門」「マスコミに出る外来語・略語総解説」とあり、内容はいわば社会人のための、一種の言葉の年鑑である。この版に限って言えば、前述の145部門に分けた日本語を、213人の専門家が解説している。評者の感想をいえば、若者言葉、外来語など、流行語の意味を調べるのに都合がいいばかりか、現在話題になっている(本来言葉そのものとは異なる)事例・事柄を調べるにも有用な一種の「時事」辞書といえる使い勝手のよさがある。だからこそいまに続く「現代用語」の「基礎知識」なのであろう。
【あるべきよう】
 このいわば「言葉の年鑑」が創刊された年次からも容易に想像がつくように、第二次世界大戦(太平洋戦争)を境にして、日本語は大幅に変った。当用漢字(現在は常用漢字)が制定されて日常使う漢字の数がわずか2千字ていどに制限され、読みや送り仮名の規則も変り、なにより米軍が進駐してきて社会がガラリと変った事実につれて、言葉だけではなく概念も戦前とは大幅に変り、かつその数も増加していったのである。その変化をこまめに追うとすれば、この年鑑の形をとるのが望ましいことは言うまでもなかろう。敗戦後わずか三年にして、この構想を現実化した戦後すぐの出版者の先見の明と熱情を高く評価すべきだろう。社会の情勢の変化に合わせた、新出の言葉の辞書の企画として「現代用語の基礎知識」は当を得たものであったと言える。
【使ってみれば】 
 この種の辞書は、時事に即して作られたものでなければならないから、こうした年鑑形式で時期に応じた内容を盛り込まねば意味がなくなる。つまり国語の意味の変化(それには用法上の強弱や関連する意味合いの変化を含めて)の新例を紹介してもらわなくては、読者としてみれば本書を買う意味はない。その点からいえば、この一九八八年版の「政治・外交・法律」「経済・産業・労働」「社会生活」「国際問題」「サイエンス・テクノロジー」「情報・通信」「風俗・流行」「メディカル健康・医療」「家庭生活」「スポーツ・レジャー」「一九八八年外来語年鑑」の項目の立て方は適切にして充分な区切りである。またこの創刊40周年号の独自企画と思われる「世相グラフィティ40年」や「カラー・グラフィックス」「下段2行話題学」などの項目もその時点での戦後の変遷を振り返って有用な特集であるといえよう。結論からいえば、創刊当初の企画を忠実に推進して読者の便を図っている編集態度に好感を持つことができる。
【それはさておき】
 以前この書評でとりあげた「エアバスの真実・加藤寛一郎著・講談社」のなかで、著者はヨーロッパで使われる「NIH」という言葉・概念を説明している。「NIH」は「Not Invented Here」の頭文字で「ここで発明されたものではない=我々が発明したものではない」という意味だそうで、欧州人は「なんでも自分の発想でやりたい」から「NIHは使いたくない」のだそうである。その伝でいくと、時事国語を解説した年鑑という概念は、最初にこの「現代用語の基礎知識」が開発したものであろうから、ほかの出版社はマネすべきではないのだ。それがこの「現代用語の基礎知識」が売れると見るや、朝日新聞社の「知恵蔵」など、後追いの類書がいくつか出版されている。評者も知恵蔵・2001年版を所蔵しているが、内容はこの「現代用語の基礎知識」と似たり寄ったりだ。八つ当り気味の評論になるのを承知の上でいえば、自動車の世界では、ホンダが展示会に出品したコンセプト車をトヨタがマネをして、本家のホンダより先に製品化して売りまくる、というような事例は枚挙に遑がないし、電機ではかの大メーカーの松下電器がしばしば「マネシタ電器」とヤユされるのもゆえなしとしない。日本人は誇り高い民族だというのが内外の定評であるようだが、前述の先例から、評者はこの定評をはなはだしく疑問に思う者である。とまれ、この「現代用語の基礎知識」は近々2008年版が「創刊60周年記念号」として発売が予定されているので、楽しみにしているところである。□