tokyokidの書評・論評・日記

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書評・邪馬台国・清張通史1

tokyokid2007-06-22

書評・★邪馬台国・清張通史1(松本清張著)講談社文庫

【あらすじ】
 本書評でもさきに紹介したいわゆる「魏志倭人伝」をもとにした、松本清張独自の史観を盛り込んだ「邪馬台国」の分析。推理作家としても名を馳せた松本清張らしく、随所に邪馬台国の謎にせまる推理がなされていて、それがゆえに、岩波文庫版の「新訂・魏志倭人伝」の巻末にも、参考文献として本書名が記載されているほどの影響力を持った本。
【読みどころ】
 著者が推理力を縦横に働かせたと、読者にも納得されるのは、本書で考察の対象となる範囲の広さである。従来の邪馬台国論が、とかく魏志倭人伝そのものの、わずか2千字の文章と字句の解釈に汲々たる有様であったのに対して、松本清張は推理作家らしく、入手し得る資料すべてを対象にして考察を進めていく。その考察は、魏志のみに留まらず、漢書、魏略、楚辞、山海経から日本の記紀にも及ぶ。さらに考察は文化・地理面にも及び、「野蛮国への悪字」「西高東低の地形」「倭と倭人」などの章で見られる鋭い推理が、凡百の、とはいわないまでも、あまたの「邪馬台国解説本」類書とは大いに異なる。推理はさらに「卑弥呼は殺害されたのではないか(第10章)」や、魏志倭人伝がテキストになるまでの誤写・脱落の問題にも話が及ぶ。まさに「魏志倭人伝」をテキストにしながら、「邪馬台国」の謎を著者の「推理」を交えて解明していくところが、本書の最大の魅力であろう。
【ひとこと】
 日本の古代史における「邪馬台国」は、日本史上最大の謎であろう。邪馬台国が九州にあったのか、それとも大和にあったのかを考えるだけでも楽しいが、さらに卑弥呼が在世した当時の邪馬台国やその周辺諸国(といっても、せいぜいいまの郡か県くらいの広さしかなかったといわれているが)の様子と、その指導者像を考えてみるのも楽しい。本書が最初に刊行された昭和五一年(一九七六)から現在に至るまででも、考古学上の重要な発見は続いているのだが、著者がそれらの成果を踏まえて本書を増補・改訂したならどんなによかったか、と考えるだけでも、われわれ素人の読者をワクワクさせてくれるのである。本書の第2章で論じられる「倭」と「倭人」は、いままでうっかりと見過ごされてきた点を、鋭利な推理で新たな提起をした著者の苦労を多としたい。松本清張は、具体的な論証をしたうえで、「倭人倭国」であると、この章のなかで結論づける。さらになぜ「倭人」と記したかについても考察が及ぶ。邪馬台国卑弥呼に関心のある人にとって本書は、以前取り上げた「新訂 魏志倭人伝・石原道博編訳・岩波文庫」と並んで、必読の書といえる。
【それはさておき】
 著者は第8章の「血液の対立」の項で、法医学者・古畑種基の日本人血液型の研究に言及する。それによると「日本列島にはじめて太平洋諸国の民族(O型)が渡来し、そこに北方系民族(B型)が朝鮮を経て渡来し、さらに他の渡来人(A型)があったといっている」とある。血液型は、DNAと並んで個人の生物学的来歴を示す数少ないひとつの物証であり、遺伝が確実な因子であるから、さすが推理作家らしく、この指摘も当を得ている。本書評でも、過去に「血液型人間学能見正比古著、サンケイ新聞社出版局」を取り上げたので、血液型に興味がある向きは、そちらも参考にされたい。肝腎かなめの「邪馬台国」がどこにあったか、著者の松本清張はどのように考えていたか、それを推理するのも著者が本書中に用意しておいてくれた読者用の楽しい推理なのかも知れない。□