tokyokidの書評・論評・日記

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書評・アメリカとは何か100章

tokyokid2007-01-07

書評・★アメリカとは何か100章(大森実著)講談社文庫

【あらすじ】
 現在世界唯一の超大国になったアメリカという国は、知られているようで意外に知られていない国ということもできる。日本では特にそうなのかも知れない。元新聞記者の著者は、この本に「興亡の岐路に立つこの超大国を日本人はどう理解するか」という副題をつけている。題名通り全100章を、第一部の「純粋政治都市ワシントン」から第九部の「アメリカ、その興亡の行方」までの九部に分けて、階級、マスメディア、適者生存、底辺の崩壊、市民生活、政治システム、企業家精神などの切口で、日本人が見落とし勝ちな100項目を並べてみせた、皮膚一枚下のアメリカを理解するためには絶好の本。
【読みどころ】
 著者は元毎日新聞のニューヨーク・ワシントン両支局長、外信部長を経たジャーナリストであり、現在は記事にも出てくるカリフォルニア州ラグナ・ビーチに居住しているところの50年来のアメリカ・ウォッチャーということができる。従って戦後の日米関係を、新聞記者の目でつぶさに見てきた人でもある。この本も、ジャーナリストの目で見たアメリカを、一般の日本人が見逃し勝ちな観点から切り落として見せる、というのが凡百のアメリカ紀行文とは根本的に異なるところだ。たとえば第88章に「投資家に40パーセントもの利回りを保証した凄腕はブッシュ人脈の新興企業家の一人」があるが、これを読むと、アメリカの企業が政治とからんで、大掛かりかつ強引な利益の追求をするさまが描かれている。そして政治家と企業家が、超大国家のトップ級政治家を巻き込んで、利益を追求するさまも解説されている。そうかと思うと、第42章「嵩にかかってくるアメリカ人、当方のはっきりした態度を見てガラリと変わるアメリカ人、アメリカ人と交際するためのヒント」は、アメリカ人の言うなりに取引しないためのノウハウとして貴重なものだ。日米貿易交渉などでやられっ放しの日本の外務省ほか各官庁の担当者には、ぜひ読んでおいてもらいたい項目である。
【ひとこと】
 世界でもっとも富める国アメリカ。そのくせ一筋縄ではいかない国、アメリカ。恫喝にも等しい強い態度で相手国に迫ってくるアメリカ。未確認情報であっても大量破壊兵器があると聞けばイラクに侵攻してしまう国アメリカ。何に関しても世界一でなければ気の済まない国アメリカ。そして自国の国益を第一に据える国アメリカ。そうかと思うと、世界中から大量の移民を受け入れ、自国(アメリカ)と闘って敗れた国(日本)にも、大量の援助物資を送り込んだ国アメリカ。政教分離を建前としながらも、良きにつけ悪しきにつけ、キリスト教精神が国の基本線となっている国アメリカ。人種差別を悪としながらも人種差別が絶えない国アメリカ。長期的な視点に立った戦略と戦術で、世界のあらゆる国に対する外交を自国中心に切り回しながらベトナムやイラン・イラクでつまづく国アメリカ。このような国アメリカと付き合うには、まず己を知り敵を知ることが肝要であろう。そのためのアメリカに関する有用な事例が、100項目並んでいるのがこの本である。ついでながら、世界の将来を占うカギのひとつは、アメリカがどんな理由であれ、核兵器を先に使って他国を先制攻撃することがあるかないか、ではないだろうか。それがあったときは、人類および地球の滅亡を覚悟しなくてはならないときだろう。
【それはさておき】
 この本の初出は、一九八九年であったが、一九九三年の文庫本の出版に当たって、クリントン(当時の新)大統領就任を機に加筆されたもの、と説明されている。二〇〇七年の現在からすれば既に十四年前の出版であり、この本を時局ものと考えれば旧聞に属することも書かれているが、たとえそうであっても、交渉相手国としてのアメリカや、個人としてのアメリカ人のやり方・考え方とを考察・理解するうえで、さらにこれらを踏まえて当方の「傾向と対策」を練るうえで、たくさんの有用な内容があるので紹介した。従って前出の「ブッシュ大統領」とは現在のブッシュ大統領ではなく、一九八九年から一九九三年に大統領だった父親の第41代・ブッシュ大統領を指す。□