tokyokidの書評・論評・日記

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書評・本当の学力をつける本

tokyokid2006-12-26

書評・★本当の学力をつける本(陰山英男著)文芸春秋

【あらすじ】
 兵庫県山あいの公立小学校の教諭である著者が、昔ながらの「読み書き計算」の反復練習を行うことによって小学生の学力・成績を驚異的に引き上げるだけではなく、子どもを伸ばすことを中心に据える視点がひいては子どもたちの言動を落ち着かせ、国語と算数以外の教科でも力をつけて成長する独特の教え方を開発し、その方法を全国区に敷衍する機会をつかむまでの物語。10年間実践の結果は、進学塾もない一地方のこの小学校の卒業生から有名大学の合格者が続出する結果を生むことになる。
【読みどころ】
 2002年4月から、文部科学省が悪名高い「ゆとり教育」を標榜する「新学習指導要領」を実施した。強力な中央官庁発のこの指導要領の存在にもかかわらずこの「陰山メソッド」は、義務教育最初の6年間の小学生が読み書き計算などを反復練習することによって、いかにその後の学習に対する適応能力を身につけられるかを、実践指導によって証明してみせた。本当の学力をつけるには、学校と家庭と社会の協力が必須であり、具体的な事項ごとにきわめて明快に説明してあるので、小学生と学齢前の子どもを持つ親には必読の書といえる。文中では著者が実践する「百ます計算」「音読」や改善すべき生活習慣「朝食をとる・毎朝排便の習慣をつける・午後7時の夕食家族会話」などの実際と効果が詳しく説明される。
【ひとこと】
 小学生といえば、人間としての知育、体育、徳育の基礎を固めるだいじな年齢層の人間なのである。考えてみれば、江戸時代の日本人は当時の寺小屋で「読み書きそろばん・素読」を習っていて、それが明治維新のとき、短期間に欧米列強諸国のレベルに追い付こうとするときの大きな戦力になったのではなかったか。それは本書の「陰山メソッド」そのものではなかったか。いま日本の教育界は「不登校」「いじめ」「落ちこぼれ」などの問題に手を焼いているが、現実は文科省も現場の学校も小手先の対策に奔走するばかりで、根本的な解決策を見出し得ていない。本来文科省はこのような規範たり得るノウハウを全国に展開し、より多くの小学生がその恩恵にあずかれるような環境づくりに精を出すべき国唯一の機関であるのに、それもしないというのであれば国にとっても大きな損害である。なにごとも基礎が大事なのであり、鉄は熱いうちに打たなくてはモノにならない。本書を一読すれば誰でもそれを納得するだろう。また「陰山メソッド」はやる気さえあれば、親が自分の子どものために大した対価も払うことなしに家庭ででもできる方法で当地の駐在員家族向き、ということもとくに付記しておきたい。
【それはさておき】
 適齢の子どものいる親であれば、この本は一読して損はない。日本の公立小学校の現状から日本の教育制度の問題点が見えてくる、という利点もある。「陰山メソッド」についてはこの本で充分理解できると思うが、さらに学門的な裏付けがほしいということであれば、文中に引用されている次の2冊も参考になるだろう。①「自分の脳を自分で育てる・川島隆太著・くもん出版」②「骨太の子育て・上田早苗著・すばる舎」。また「陰山メソッド」は民間の「公文式」と共通点が多いとされる。併せて研究すべきかも知れない。なおこの本は2002年3月第一刷の新刊本である。
(TVファン誌2003年4月号掲載原稿)