tokyokidの書評・論評・日記

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書評・QCからの発想

tokyokid2006-10-04

書評・★QCからの発想(唐津一著)PHP文庫

【あらすじ】
 この本には「仕事の質と効率をいかにあげるか」という副題がつく。そのためにQCとはなにか、どう使いこなすか、そのノウハウのかずかずを戦後日本の製造業の発展につれてどのように進歩してきたかの歴史も踏まえて、素人でもよくわかるように、ほとんど数式を使わないで解説してある。
【読みどころ】
 著者の唐津一氏は、QCつまり品質管理問題における日本の第一人者である。著者は製品のできばえの差を、設計したとおりの品物ができないことを「適合の品質」の問題としてとらえ、解決をはかる。つまり適合の品質をよくすることによって、いかにねらった品質を忠実に実現し、不良品を減らし、コストを下げるか、を説き明かす。いまやQCは、製造業ばかりでなく販売業でも、飲食業でも、ひいては官庁のサービスにおいても、その気になりさえすれば応用は無限である、と実例も豊富だ。もちろんQCは販売促進にも「使える」ツールでもあるので、注目すべきだ。この本は自分の仕事のQCを考え、理解し、応用するために最適な読みものなのだ。
【ひとこと】
 直接QCに関係ない立場の人に「QCとはなんですか」と尋ねると「良い製品を作ることです」という答えが返ってくることが多い。目的はそうであっても、実は「QCとはバラツキをなくすこと」なのだということが、この書を読むことによってよく理解できる。本書によれば、統計的品質管理を考えだしたのは、アメリカのATTベル研究所のW・A・シューハートであるが、この手法を日本に紹介したのが品質管理を極めた企業や個人に与えられる賞にその名を残す故デミング博士であった。戦後早い時期に来日したデミング博士のセミナーに出席してその後大企業の経営者に昇り詰めた有能な面々がそれぞれの所属する会社に持ち帰って品質管理運動に努めた結果、戦前は安かろう・悪かろう、と称されたメードインジャパン製品が「良くて安い」商品の代名詞に変わって世界を席巻した。同時に日本語の「上等舶来」は死語になった。かつて良いものは高いというのが常識だったが、QCが行き渡ったいま、大量生産が前提の製品に関しては良いものは安い、と大きく変わった(ただしこの場合、逆は必ずしも真ならず、だ)。また著者は、QCの手法が製造業のみならず、行政、飲食業、農業、建設などのサービス業を含む広範囲の産業に応用できることを示しているが、行政が仕事の能率を上げて顧客たる国民へのサービス向上を図る代わりに、自分たちの首を絞めるような施策を選択するわけがないから、行政については、よほど強固な意志をもった首長をいただく自治体でないと、実現は無理だろう。
【それはさておき】
 プラザ合意以来、日本の製造業は安い賃金を求めて大挙して外国に移動した。いまでは世界の製造工場は中国、タイ、インドネシアなどのアジア諸国であり、この面での日本の影はうすくなりつつある。近時日本国内で大きな問題となった三菱自動車雪印乳業・食品、日本ハムなどの、会社ぐるみの品質管理トラブルを見ていると、戦後営々として築いてきた世界に冠たる日本の品質管理技術が、いま音を立てて崩れ落ちていくのをみる思いがする。戦後半世紀以上の時が経って、日本のQC運動は制度疲労を起こし、お題目だけになってしまったのだろうか。
(TVファン誌2002年11月号掲載原稿)