tokyokidの書評・論評・日記

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書評・パソコンのパの字から

tokyokid2006-09-20

書評・★パソコンのパの字から・ウィンドウズ98対応版(サトウサンペイ著)朝日新聞社

【あらすじ】
 若者もすなるパソコンなるものを、私も挑戦してみようかと、一念発起した高齢者や、機械オンチユーザーなどのパソコン弱者を救済するために書かれた入門書。著者は巻頭で「私はパソコンのパの字も知りませんでした。この本はワープロもパソコンも知らない人のために書いたものです。少しでも知っている人はお読みになる必要はありません」と宣言する。世に「サルでもわかる・・・」とか「初心者のための・・・」で始まるパソコン入門書は数多いが、じつは読めば読むほどわからなくなる、と訴える読者も多い。しかしこれはパソコン弱者の初心者でも、正真正銘読めばわかる、ほとんど唯一ともいえる本なのだ。
【読みどころ】
 著者はパソコン操作に関する「技術者」と「初心者」の距離を、わかりやすい日本語と見ればわかるマンガを使ってみごとにあぶり出してみせた。コンピュータ技術者がひとりよがりとも言える日本語の難解な単語と悪文による解釈の混乱を引き起こしながら、弱者に理解を無理強いしているのが現状といえる。でも初心者がこの本をひととおり読めば、あら不思議、おとうさんでも女性でも、まったくのコンピュータ弱者にとっても、かなりの程度でパソコンを動かせるようになる、まるで地獄で仏に出会ったような書。いまでもウィンドウズ98のユーザーは多いので、コンピュータ弱者にとってはまだまだ利用価値あり。
【ひとこと】
 マンガ家のサトウサンペイさんは、お得意の絵と文章で、まったくのパソコン素人の立場にたって、配達されたダンボール箱を開梱するところから「わかりやすく」説明してくれる。この「わかりやすく」というのが曲者で、前述の難解な入門書のたぐいは、本を書いている人はわかっているのだろうが、言っていることの中味が読者、とくに初心者に伝わらない、という致命的な欠陥をもつ。本を書く人が必ずしも本を読む人の立場に立って説明文を書いていないわけだ。この欠陥をサンペイさんがみごとに克服して、パソコンのイロハから、電子メールをふくむインターネットや写真や絵の送信までの高等技術が、ひたすらに読むだけで理解できるコンピュータ弱者用の教則本。これ一冊をマスターすれば、素人でもパソコンをかなり使いこなせるようになること請け合いの書。読むだけでも面白く、パソコンとは・・・がわかる本。また外来語の単語や訳文の適切さをも考えさせる本。
【それはさておき】
 パソコンを操作することと、その操作を素人にもわかるように説明することとは、まったく別のことだ。この「読めばわかる」説明作業の専門家であるテクニカル・ライターを活用しないパソコンとソフトのメーカーは断罪に値する。日本人はノウハウにカネを払うことを極力避けようとするから、わかりにくい入門書の氾濫も当然の帰結か。
(以上はTVファン誌2002年4月号掲載記事)
【ブログ版へのあとがき】
 オリジナル記事を書いたときからずいぶん時間が経った。進歩の速度が早いパソコン業界で、ウィンドウズもその後2000からXPへと進化してきた。評者に限らず、パソコンをまず本から覚えようとすれば必ず失敗する。畳の上の泳法になるからだ。やはりパソコンは実際にいじくらなくては操作を覚えることはできない。そのときの参考になるように、パソコンの概略を素人が一読してわかるように書いた本は、現在に至るまで暁の星のように少ない。逆にいえば、専門家のひとりよがりで、読者にはなんのことかわからない「専門的かつ独善的な」説明で事足れりとする説明本やマニュアル本がこの業界には多過ぎる。しかしこの本の著者のサトウサンペイさんは、パソコンには素人でかつ漫画家だから、絵と文章をうまく使って、このような分かりやすいパソコン入門書を書くことができたのだろう。欲を言えば、XPに関しても書いてもらいたいものとつくづく思う。本書はいまだにパソコンの基本概念を、そういう言葉すら使ったことのないド素人でも、読めば分かる本の代表格なのだ。余談ながら、パソコン業界には日本語の達人は居ないと見えて、アメリカからの外来文化であるパソコン(に限らずコンピュータ)用語を、もとの英語から日本語に直す作業が真剣かつ分かりやすくなされていない。「生硬な」というも愚か、理解に苦しむ日本語用語や用法の連続が現在でも続いているのがパソコン業界事情である。ユーザー事情を忖度しないこの態度は、公僕精神を失った政治家・役人が私益・省益に走って国民の利益を省みない事情によく似ている。マッキントッシュが個人向けパソコンの市販を開始してからでも、すでに四半世紀も経つというのに、いったいこれはどうしたことか。□