tokyokidの書評・論評・日記

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書評・史上最高の投手はだれか

tokyokid2006-09-10

書評・★史上最高の投手はだれか(佐山和夫著)潮出版社

【あらすじ】
 いまはない黒人リーグの花形投手で、公式記録によれば一九〇六年アラバマ州モービル生まれ、四二歳にして初めて大リーグのインディアンスに入り(一九四八)、大リーグ最後の登板は一九六五年、じつに五九歳のときアスレチックスに於いてであった、という伝説の大投手サチェル・ペイジに関するノンフィクション。蛇足ながらペイジ投手は一九七一年に黒人として初めて野球殿堂入りした。さらに蛇足ながら、ペイジ投手の(四二歳以降五九歳で引退するまでの)大リーグにおける現役投手としての生涯記録は(なんとこの年齢で!)六シーズン・二八勝三一敗、防御率三・二九。当時の投手は先発・中継ぎ・クローザーなどの分業制ではなかったのに!
【読みどころ】
 大リーグ初の黒人選手は、戦後一九四七年に当時のブルックリン・ドジャースに加入したジャッキー・ロビンソン内野手であったが、当時の黒人リーグは、本書の主人公・ペイジ投手を含めていかに多士済済であったかがわかる。ちょっとしたタイミングのずれで、ジャッキー・ロビンソンやロイ・キャンパネラ以上の力量を持つといわれながら大リーグでプレーすることのなかった不運な黒人リーグのプレイヤーたち、たとえば強打者で鳴らしたジョッシュ・ギブソンや強打・俊足のクール・パパ・ベルそのほか多数の大リーグ級の黒人選手についても記述されている。アメリカには差別主義者もいるが、誰にでも公平に接することをモットーとする人たちもたくさんいる。黒人にも野球殿堂の門戸を開放しようとした動きについても、このノンフィクション作家は洩らさず記述している。その後殿堂は黒人選手にも開放されるようになった。これではアメリカン・ドリームを信ずるしかないではないか。
【ひとこと】
 百三十年を超える大リーグの史上「だれが」最高の投手だったかは議論が分かれるところだが、あの「火の玉」と称されたボッブ・フェラーが「自分の速球がまるでチェンジアップに見えるほどペイジの球は速かった」と述べていることで、いかにペイジの球が速かったかわかる。百マイルの速球といわれたペイジは制球力も抜群で、彼の投球練習はホームベースの代わりにタバコの箱やガムの包み紙を使ったので大変な人気を呼び、これだけでアトラクションになった、と著者はわざわざ「スピードとコントロール」という一章を設けている。いまでこそ野球はアメリカの国技として世界中に認知されているが、ジャッキー・ロビンソン以前は大リーグに参加を認められず、差別されながらも偉大だった黒人選手が星の数ほど存在したのだ。
【それはさておき】
 著者は「アメリカ野球学会」の会員で野球が大好きな人であるが、野球を愛する人でなくては書けない偉大な黒人投手に関するノンフィクションがここにある。日本でほとんど知られなかったペイジの業績をはじめて紹介したのは著者の功績だ。この本を読めば、誰でも野球はアメリカの文化そのものであることを再確認するに違いない。最近アメリカで刊行された全国の球場を網羅・特集した「Take Me Out to the Ballpark」(John Leventhal 著・Black Dog & Leventhal Publishers, Inc.)では、一章を割いてニグロ・リーグの球場を特集している。まさに隔世の感、である。
(TVファン誌2002年8月号掲載原稿)