tokyokidの書評・論評・日記

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随筆・駐在員今は昔(その五)【EWJ071101掲載原稿】

tokyokid2009-03-02

駐在員今は昔(その五)

 当方の常識は必ずしも先方の常識ではない、ということくらいは理解しているつもりであった。ところが実際に下記のような見聞を自分で経験してみると、やはりアメリカの社会と日本の社会を比較して、どうしても違和感が残ってしまうのである。
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 アメリカではなんでも裁判だ。会社の秘書が風邪で休んでいたが、出勤してきた。その彼女が同僚に相談している。「ねえ、私は朝から考えていたのだけれど、あなたの意見を聞かせて。私は今回風邪を引くような設備の悪い事務所のオーナーを訴えるべきか、それともそのような事務所で従業員を働かせている会社を訴えるべきか、どう思う?」
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 駐在員のF氏は客のひとりをやっと食事に誘うくらいの関係を築いた。食後の世間話から、お互いの家族に話題が及んだ。客のアメリカ人G氏は、自分の奥さんがいかに能力の高い女性であるか、とくに料理が上手であるか、また娘は絵が上手で才能があり、しかも美人であるとも話した。日本人の感覚では、自分の家族のことは控え目に言うものであるが、さすがアメリカは自己PRの行き届いた社会である。取引先に向って(自分のみならず)家族のPRも必要であるらしいと、F氏は理解したことであった。後日G氏の自宅に招かれて、自宅ツアーで見せられたキッチンはすべてピカピカで、F氏にはとても使い込まれた台所には見えなかった。
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 ゴルフの好きな駐在員のH氏は、ときどき仲間とゴルフ場に出かけた。きょうは得意先の紹介で、格の高いメンバーオンリーのゴルフ場なので、カートで回らず、キャディを雇った。とても品のいい好青年のキャディだったので、プレーを終ってチップを渡すとき名前を聞くと、自分の取引先で世界の大企業として知られている石油会社の会長と同じ苗字だったので、「すばらしい名前だね。ぼくのお客さんの会長さんは、君と同じ名前だよ」と言ったところ、青年からは「はい。私の父です」との返事が返って来た。H氏はキャディとプレー中ずっと一緒だったので、仲間内の話も聞かれていたわけで、冷や汗三斗の思いをした。
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 冗談か本当かよくわからないが、屋根から侵入した泥棒がガラスの明り取りを踏み抜いて室内に落ち、大怪我をした。泥棒は家主を訴えた?
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 これも冗談かもわからない。マンハッタンで歩道を歩いていたご婦人が、つまづいてハイヒールのかかとを折った。彼女は市を訴えた?
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 日本は10年遅れでアメリカの後を追っている、といわれる。グローバル・スタンダードという名のアメリカン・スタンダードも国内で行き渡り始めた。かつて日本人の八割は自分が中産階級だと思っていたが、いまでは貧富の差は開くばかり、日本の社会は勝ち組と負け組に分かれつつある。アメリカのハゲタカ・ファンドのクローンも日本の企業として産声を上げ始めた。儲かればいい、という思想が日本を席巻している。たしかにアメリカの土俵で戦うなら、アメリカのやり方をマネしなければ勝てない。学ぶという言葉は、真似ぶからきているという説があるくらいだから。□
【EWJはハワイ州で発行の情報誌 East West Journal のこと】