tokyokidの書評・論評・日記

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書評・幸せのある老人ホーム

tokyokid2008-10-11

081011・はてなブログ掲載
書評・★幸せのある老人ホーム(岩城祐子著)扶桑社

【あらすじ】
 この本は、腰巻にあるとおり「日本の有料老人ホーム」の草分けである著者が、自分の有料老人ホームをいまの形に作り上げていった経験から書かれた本である。内容は題名に見るごとく「幸せのある老人ホーム」についてのあり方を問うたものであり、その問い方は実際に有料老人ホームを経営してみなければわからなかったであろうところの、極めて重要な「入居者」「有料老人ホーム経営者」「所轄官庁」3者の関係にも筆が及んでいる。読者の側からすれば、いい有料老人ホームを選ぶにはどういう点に気をつければいいか具体的な各点について理解できるだけでなく、有料老人ホームと所轄官庁とのかかわり、介護保険とのかかわり、さらに背景にある日本の社会情勢とのかかわりまで(表面的なことだけでなく深く)考察できる、かまえて優れた有料老人ホームの選択指南書であるということができる。
【読みどころ】
 じつは筆者は、よい有料老人ホームを探すに当ってどうすればいいかを考え、まずインターネットで情報検索をしてみた。さらに関連する本を読もうと考えた。いまや日本は介護花盛りであって、この方面の出版物も数多く存在する。全部読むわけにもいかないので、自分で読むその種の本は一冊だけと決め、その一冊は自分のカンで決めることにした。たまたま新聞の本の広告欄でみたこの「幸せのある老人ホーム・岩城祐子著・扶桑社」をなんの作為もなく選んだ(もちろん著者が実際の有料老人ホーム経営者であることがこの本の選択の決め手になった)。著者の岩城祐子さんは大正13年東京生れ、華麗な勤務や自営の経歴ののちに昭和56(一九八一)年都市型有料老人ホームの草分けとなるシルバーヴィラ向山を東京・練馬に開設、そのあと「特養」をふくむ老人用施設を続々とつくってきた人なのだ。このように著者は老人ホームの経営者で、二〇〇七年にこの本を出版された時点では、これら老人ホーム群の経営を子息に譲られたあとだったそうだ。この本の内容は・・・・・
第一章・日本の高齢者はなかなかたいへんなのでございます
第二章・幸福な家のある暮らしを営む高齢者とは
第三章・幸福な逝き方のために
第四章・納得できる有料老人ホームを選ぶために
第五章・八十三歳、当然現役、まだまだやることが目白押しです
あとがき・・・・・
の各章からなる。このなかには、著者が実際に見た高齢者の「老いていく」経験のかずかずも語られている。題名をみただけでも参考になりそうな章のなかの項目を挙げると・・・・・
・ どんどん規模縮小する介護保険は、頼りになりません
・ 行政のすることを反面教師にやってまいりました
・ 「高い金を払って、親を老人ホームに入れる人はいない」
・ 自立と依存のはざまで、高齢者の心は揺れるのでございます
・ 昔ながらの介護にも、思わぬよさがございます
・ 育ての親のご遺体が冷えないうち、有価証券を探した養子様
・ 有料老人ホームで夫と過ごし、夫亡きあと独りで暮らす
・ 最愛の息子に知らせず、ひっそり最期を迎えたお客様
・ 風光明媚な避暑地にあるホームは、お年寄りには嬉しくありません
・ こんなところに注意した、賢く有料老人ホームを選ぶ
・ 月イチ就農は元気が出て食料も手に入り、いいことずくめでございます
・・・・・などの項目が並んでいる。実際に「老人ホーム」を見たことのなかった小生にとって「この本」は、有料老人ホームへの入居を考えざるを得ない立場の高齢者にかかわる問題点をまるごと目の前にさらけ出してくれた、きわめて有用なかつ優れた本であった。
【ひとこと】
言えることは、自分に適した有料老人ホームを探すとするならば、最適のガイドブックがこの本であることだ。副題の「アナタは御自分の老後に自信が持てますか?」という問いに対しての答がこの本なのである。とくに「第四章・納得できる有料老人ホームを選ぶために」は、有用なアドバイスに満ちている。自分が有料老人ホームを選ばなくてはならない立場に置かれたら、この本は必読の一冊ということができるだろう。
【それはさておき】
 この本を読んでの印象を問われれば、ひとつは「行政はアテにならない」ということである。ならばどうするか。齢をとって身体のあちこちが故障するようになって、思考も若いときとはくらべものにならないほど狭く遅くなって、モノ忘れが日常生活にも差し支えるほど多くなって、なにごとによらず選択肢の幅がぐっとせまくなって、そのときの少なくなった選択肢のなかでなにを選択すべきか、それが問題になる。有料老人ホームが自分にとって選択肢のひとつになり得るかどうか、なるとすれば幾多のなかからどこを選ぶべきか。まずこの点を自分なりに明らかにせねばならない。そしてもし「有料老人ホーム」が自分が求めている老後を過ごす場所として適当であると思えば、まだ身体を動かせるうちに情報収集をしておくことは、必須条件であろう。もちろんそのための個人の経済的な基盤は重要な前提条件となるが、その程度については、本を読んだり下記の団体で調べたり、はたまた自分の気に入った有料老人ホームに体験宿泊をしてみるなどの具体的な調査の道中で、見出していくしかない。
【蛇足】
 下記のとおり有料老人ホームの横断的組織団体があるので、もし実際にあなたが「いい有料老人ホームを選ばなくてはならない立場」に立ったならこの組織に相談し、かつ情報提供を受けることをお勧めする。連絡先は下記のとおりだが、実際に現地に出向いて相談するのがもっとも望ましいと思われる。
★社団法人・全国有料老人ホーム協会 (www.yurokyo.or.jp)
〒104-0028 東京都中央区八重洲2-10-12 国際興業第二ビル3階 TEL.03-3272-3781(代表) 03-3548-1077(入居相談) FAX.03-3548-1078□