tokyokidの書評・論評・日記

tokyokid の書評・論評・日記などの記事を、主題に対する主観を明らかにしつつ、奥行きに富んだ内容のブログにしたい。

書評・羅府新報

tokyokid2008-08-19

書評・羅府新報(海外最大の日英バイリンガル日刊紙・ロスアンジェルス市)

【あらすじ】
 海外バイリンガル日刊紙最大といわれる「羅府新報」は、南カリフォルニアロスアンジェルス市で発行されている有料の新聞である。現在の公称発行部数は1万5千部ほど、日本語版読者と英語版読者は、それぞれ約7対3の割合で日本語版読者のほうが多いといわれる。また読者の住所は南加(南カリフォルニア)のみならず全米にまたがっており、また僅かではあるが日本や他の国に居住する読者もあるとのこと。新聞の表紙は、右側の頁から日本語版がタテ書きのため右綴じ方式で始り、左側の頁からヨコ書き・左綴じ方式による英語版の構成になっている。創刊は一九〇三(明治36)年で、二〇〇三年には百周年記念の特別号が発行された。日本語版の読者は、当然のことながら日本語で日常を過ごす「日本語族」の人たちで、主として戦後日本からアメリカに渡ったいわゆる「新一世」が中心となる。また現在は当地に住む日本企業の現地駐在員や留学生なども含まれるだろう。英語版の読者は、すでに日常の言語としては英語しか使用しない「英語族」のいわゆる「日系アメリカ人」であり、この層は明治維新時代からの日本からの移民の子孫で、いまや五世、六世の時代となっている。当地の事情をご存じない日本在住の日本人のために付け加えれば、最初(戦前)アメリカに渡って来た日本人「一世」の日常語は当然日本語であったが、英語については不自由な人が多かった。だがアメリカに残ると決めてからは(日本人としては当然であるところの)子の教育に注力し、それは当然アメリカの教育であったから、従って二世以降の日系アメリカ人の世代は日常語としては英語を使い、日本語を使う機会はほとんどない人が圧倒的に多い。
【読みどころ】
 羅府新報はこのような歴史と読者を持つ日英バイリンガル日刊紙であるから、日英両語版をひとつの新聞で読めるということが一大特長であろう。評者は日本語版のみの読者で、英語版はほとんど読まず、従って英語版について云々することを避ける。日本語版についていえば、紙面は大きくわけて米国内と日本国内のニュースに大別することができる。これら日本語版のニュースは通信社系のニュースと、それから羅府新報の記者が足で集めた(主として南加の)ローカル・ニュースとがある。そのほかに特筆すべきことは、日本の毎日新聞と特約した同紙の抜粋記事が、分量でいえば日本語版の半分を占めており、ここに掲載される記事の限りにおいては、国際・政治・社会から家庭・文化・文芸に至るまで、日本の毎日新聞(の一部)を読むのとなんら変りない。ただし著作権の関係もあって、日本の毎日新聞本紙に載る記事があまねく羅府新報にも転載されるわけではなく、その点おのずから日本の毎日新聞を購読するのとは異なる事情が存在する。
【ひとこと】
 このような長い歴史を刻む「羅府新報」紙であるが、戦後半世紀以上経って、当地・南加の事情も大いに変わってきた。アメリカの人種構成からいえば、ここカリフォルニア州では白人の人口が50%を割った。アジア系のなかでも韓国系・中国系・ベトナム系の人口は朝鮮・ベトナム両戦争後大幅に増加したが、日系の人口はいわば横ばいのままだ。ただし日本企業の現地駐在員や留学生は増えており、その点日系アメリカ人や新一世を含めて、日本人内の「日本語族」「英語族」の構成も変わってきている。出版業界でいえば(日本でも事情は同じようなものであろうが)有料の新聞がどんどん姿を消し、当地の日刊紙で残っているのはいまや羅府新報のみとなった。代って日本の朝日新聞日本経済新聞が現地印刷方式で読者にサービスしており、そのほか「無料情報誌・紙」のジャンルに属するローカルの出版物が雨後の筍の如く増え、日刊新聞だけとっても、発行部数ではるかに羅府新報を凌駕する新聞も現れた。ただしこれは「日本語のみのスポーツ紙」であり、日米バイリンガルの羅府新報とは紙面構成が異なる。そのほかに週刊、月刊などの無料情報誌は十指に余るほど発行されており、そのなかで羅府新報は「健闘」しているのか、「衰退」の一途を辿っているのか、その評価は人によってまちまちであろう。評者が身の回りの日本企業の現地駐在員に聞くと、そのほとんどが羅府新報を購読していない事情を見て、まだまだ羅府新報の有料発行部数を増やすことは可能と見ている。しかしそのような(拡販の)意志を、同社の現経営陣が持っているかどうかは、自ずからまた別の問題であろう。
【それはさておき】
 羅府新報・日本語版一面には「磁針」という八百字のコラムがあり、ほぼ毎日掲載されている。この欄のために、羅府新報社内の記者と並んで外部の人による約20人の執筆陣が形成されている。だから執筆者一人についていえば、原則として月一回程度自分の原稿が掲載されることになる。評者は一九九六年以来このコラムに出稿しているが、羅府新報・日本語編集部の同意を得て、過去十年以上にわたる「磁針」原稿をこの「書評・論評」コラムに転載することにした。執筆に当っては、最初から一貫して日本の外から日本を見た視点を原点とした。それで日米文化比較までできればいちばんいいのだが、そこまではとても行っていない。だが岡目八目のものの見方を汲み取っていただければ幸いである。余談ながら、現地で発行される日本語の出版物に関しては、当欄で過去に「おばあちゃんのユタ日報」(上坂冬子著・文春文庫)、また日本の新聞事情に関しては「新聞社」(河内孝著・新潮選書)を取り上げた。併読していただけると有難い。□