tokyokidの書評・論評・日記

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書評・JIS C5141

tokyokid2008-03-25

書評・JIS C5141(日本規格協会発行)

【あらすじ】
 JIS は Japanese Industrial Standard の略で「日本工業規格」と訳される。本書の扉にある説明によると、日本工業規格工業標準化法第15条の規定によって日本工業標準調査会の審議を経て確認・改正・廃止される、と明記されている。本書評が対象とする「JIS C5141」は日本工業標準調査委員会電子部会の審議を経た上で、上記の手続きを経て定められるところの、官報にも記載された日本国の規格である。制定は昭和46年(一九七一)で、本書評の底本としたのは昭和57年(一九八二)の改正版である。規格番号は「JIS C5141」であり、題名は「電子機器用アルミニウムはく形乾式電解コンデンサ」である。
【読みどころ】
 部外者にとって工業規格などというものは、単なる数字や図式の羅列で、面白くもおかしくもないものであることは百も承知しているが、これがメシのタネということになれば自ずと話は別である。この規格は、電子部品の一種である「アルミニウム電解コンデンサ」についての規格であり、35頁ほどの小冊子である。収録されている規格はアルミニウム電解コンデンサという単一製品であるから、規格の分量もそれほど多くはない。この規格は「1.適用範囲」「2.用語の意味」「3.形名」「4.定格」「5.外観・構造・形状・寸法及び表示」「6.性能」「7.表示」の各項目に分かれ、必要に応じて豊富な付図・付表がついて細目が規定される。終わりに約6頁に渉って「解説」があり、この規格の制定の経緯や目的、審議経過などが詳述されている。
【ひとこと】 
 表紙裏の「電子部会・コンデンサ専門委員会構成表」には、二十人余りの当製品メーカーや関連団体の技術部門指導者お歴々の名前が、所属企業名とともに列挙されてあるが、その中に長いこと評者の直接の上司であられた桑原詮三氏が含まれている。桑原氏は技術者でありながらズブの素人にも専門の技術知識を平易に噛み砕いて説明し、理解させることができるという、技術者としては「稀有の」才能の持主である。氏が当規格作成に当ってなされたであろう事跡は、この規格を誰にでも親しみやすく分りやすいものにするという点で大いなるものがあったであろうことは、想像に難くない。当規格は、読めば誰にでもわかるように仕上がっている。本規格とは別に「JIS C5102・電子機器用固定コンデンサの試験方法」というJIS規格があるが、この規格が氏を中心としたグループで内容の改訂作業を行ったことがあって、そのとき評者も氏の作業の手伝いをしたことがあった。文科系の評者に技術の真髄などわかるはずもないのだが、当時上司であった桑原詮三氏の指導のお陰で、電子部品とは、アルミニウム電解コンデンサとは、試験とは、それぞれ如何なるものであるかを、たとえ不完全ではあっても評者なりにある程度理解することができるようになったのは、ひとえに氏のお陰である。特に記して、氏に感謝申し上げる。
【それはさておき】
 JIS は日本国の定めた正式な工業標準規格である。日本人はなべて正直であり、かつ凝り性でもあるので、このような規格を作ると、飛び抜けて精確な規格を作ってしまう。いまや世界周知の如く、そのような規格に沿って忠実に作られた日本製の工業製品は、欠点が少なく、性能もよいのが普通であるが、製造にはそれなりの努力が必要となり、時間も労力もカネもかかる。それを嫌って、最近は中国が米国を巻き込んで、各国独自の工業規格・規定類を「国際規格」に沿ったものでなければ国際的には無効、という定めを世界的に普及させることを画策し始めた。かくて価格・品質ともに世界に冠たる日本製品の基本ともいえる技術規格が、特定国の利益のために、いまや風前の灯となっているのだが、日本国内ではこの事実は報道もされなければ関心を向ける人も極端に少ない。従って問題になることもほとんどない。このままでは今世紀日本のメシのタネになると大部分の日本人が思っている「技術立国・日本」の掛け声などは、夢のまた夢に終ることだろう。そうなったら日本国にとってまことに由々しき「困った」事態になる。この件については、あとから本書評に載せる予定の「拒否できない日本・関岡英之著・文春文庫」でも紹介する予定だ。□