tokyokidの書評・論評・日記

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書評・会社四季報

tokyokid2008-03-07

書評・会社四季報会社四季報編集部編)東洋経済新報社

【あらすじ】
会社四季報」は全国の証券取引市場で自社の株が取引される上場会社に関する決算報告一覧表ということもできる。「春」「夏」「秋」「冬」の年四回発行されるので「四季報」つまり「季刊」というわけだ。それぞれの上場会社について社名から始まって本社・営業所、従業員数、資本金、借入金、売上、利益などの業績や、チャートを含む株価に関するデータなどを、一社一頁のスペースにぎっしりと事細かに記してある。日本では、大多数の会社の決算期が毎年3月末であるから、そのような会社の年度末の決算数字は、会社四季報の「夏号」に掲載される。
【読みどころ】
 会社四季報を手に取る読者の大多数は、証券取引つまり株の売買を通じて投資活動をしている個人と、他社の動向をみるために購入する法人とに大別できるのではないか。全上場会社を、部厚いコンサイス版辞書より一回り大きな変型版で見られるという一覧性が、永年にわたって多くの読者を引き付けている理由であろう。内容は過去の業績だけでなく、将来(のとくに株価)を予測するために必要なデータや分析結果を記載しているのが特徴で、この点上場会社に法律で発行が義務付けられている「決算報告書」の単なる集積と異なる。当然のことながら、日本の証券取引市場に上場している外国企業や、そのほか日銀や生命保険・損害保険会社などの上場してはいないが重要な会社に関する情報も掲載してある。頁数のほとんどを個別の上場会社の業績紹介に費やしているが、そのほかに配当性向、ワラント債時価転換社債、予想1株益ランキング、含み益から研究開発費そのほか索引なども含めて、極めて充実した市場データを掲載してあるのが強みだ。
【ひとこと】 
 証券取引をする人つまり上場株を通じて投資活動を行う人にとっては、この「会社四季報」は文字通り座右から離すことのできない重要資料であろう。それが年4回、内容を更新して書店の店頭に並ぶのである。それも一冊わずか2千円足らずの安い値段で。これは日本ならではの素晴らしいサービスであり、資本主義の権化のようにいわれる国アメリカにも、これほどの証券取引所上場会社の業績やデータなどの必要にして充分な情報を、正確かつ早期に一覧できてしかも安価な定期刊行物は、ない。
【それはさておき】
 一九三六(昭和十一)年創刊の「会社四季報」は雑誌「週刊東洋経済」と並んで、経済関係の出版社として信用の厚い東洋経済新報社の看板的な存在である。同社は一八九五(明治二八)年に、のち民政党総裁に就任した町田忠治によって創立された。ほかにも大正期の14年にわたって同社の主宰を勤めた「満洲放棄、小日本主義」の提唱者として知られる三浦銕太郎や、さらに戦後日本の蔵相・首相を務めることになる石橋湛山が主幹を歴任するなど、同社を彩る歴史上の人材は豊富であると同時に、経済誌でありながら政治の臭いも消すことができないという特徴も持つ。(この三浦銕太郎の所説については、評者は維新以来、極端な拡張政策に走った旧長州閥に与せずに所信を貫いたと高く評価する者であるが、その詳細を論ずるのはまたの機会に譲ることとする)。それにしても、戦後もだいぶ経ってから日本経済新聞社が本書と大同小異の内容で「日経会社情報」を新たに出版するなど、日本は相変わらず他人のモノマネが多い。国内でやっている分にはお互いに物笑いのタネで済むのだろうが、国際的にマネをすればヒンシュクを買うことになるし、訴訟の原因にもなりかねない。戦後も半世紀以上経って、日本の経営者も相当の場数を踏んだはずなのに、現在も依然としてこの種の「モノマネ」が絶えない現象をなんとみたらいいのだろうか。□