tokyokidの書評・論評・日記

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書評・JR時刻表

tokyokid2008-03-01

080216・はてなブログ掲載
書評・★JR時刻表東日本旅客鉄道株式会社編・版)

【あらすじ】
 今は昔の「旧国鉄」が、その後地域別に分れた北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州の各旅客鉄道会社と、全国にまたがる貨物鉄道会社に分れて、「JR各社」となった。「時刻表」は旅客用であるから、貨物列車の時刻は出ていないが、上記のJR各社(総称してJRグループ)の新幹線と在来線の旅客用列車の発着時刻のほか、JRバス、私鉄線(どういうわけかこのJR時刻表では「会社線」と称する。自分たちの旧国鉄旅客鉄道会社も会社であることに違いはなくなったのに・・・)から国内線・国際線の航空ダイヤまでを盛り込んである。鉄道の各駅に於ける「発着時刻」を案内するほかに、JR営業案内や、旅館・ホテルの表や広告などもあって、時刻表が一冊あれば、運賃からサービスの内容、特急料金から特別割引運賃、果ては列車編成から主な駅の案内図までわかる仕組みになっている。しかもわざわざ一頁を割いて「JR旅客会社の境界区」をカラーで説明してあるから、全国を上記の各旅客鉄道会社がどのように分割して、どこからどこまでを自社のナワバリにしているかを、ただちに知ることができる。またカラー印刷の口絵というか巻頭の催しものの案内や、地方の名物紹介記事などは、広告の一種なのだろうが、読んでいると旅心を誘われてとても楽しい。
【読みどころ】
 本評の底本に使ったのは「JR」の時刻表、B5版、1032頁、1990年12月号である。この時刻表は現在我が家にある一番古い時刻表なのである。いまの時刻表とどこが違うかといえば、その後18年間に廃線になった線路の情報がこの古い時刻表には載っていた、ということである。日本の鉄道は、経済バブルがはじけたといわれた、たまたまこの時刻表が刊行された一九九〇年ごろを頂点として、あとは一気呵成に縮小に向うことになった。だからいまの時刻表と比較して、昔の廃線跡を辿るという楽しみ方もあるわけなのだ。もっと古い時刻表をお持ちの方は、その意味でもっと楽しめることはいうまでもない。また時刻表マニアと称する人は全国に何人いるか知らないが、その数は膨大なものであろう。有名なところでは、作家だけでも内田百鐘??A阿川弘之宮脇俊三そのほかの諸氏が、ドキュメンタリーや随筆などの形でたくさんの楽しい著作を残してくれている。かつて鉄道ファンは男性と決まっていたものだったが、いまは「鉄子」と称する女性の鉄道ファンもいて、その中には矢野直美、宮脇灯子など、作品を発表する人もでてきた。われわれ一般読者にとっては、実際には旅行しなくても、時刻表を読みながら机上で架空の旅行をしてみるのも楽しいもので、この魅力が多くの鉄道ファンの心を捉えて離さないのだろう。蛇足ながら、時刻表には「ポケット版」という携行に便利な小さな頁の少ない版の簡易版も用意されているのはご存じのとおりだ。評者はたまたま米国カリフォルニア州に住んでいるが、同じ鉄道といっても、アメリカと日本では規模も扱いもまったく違う。アメリカでは鉄道の時刻表を書店で(それも毎月)発売しているなんてことはないし、どうしてもアメリカの鉄道の時刻表を欲しければ、英国の旅行会社・クック社の(世界各国を網羅した)鉄道の時刻表か、米国内の旅行代理店向けに発行していたアムトラックの時刻表しかないのではなかろうか。それもインターネット時代のいまは、紙の時刻表はあるのかないのか、北米の鉄道はさっぱり影が薄くなってしまった。すると毎月新たに発行される大冊の時刻表を手にできる日本の鉄道ファンは、世界中でもまれな幸せ者なのかも知れない。
【ひとこと】 
 時刻表といえば、戦前のいつの頃から前だったか、「時間表」と呼ばれていたような記憶がある。それはともかく、もともと旧国鉄の「時刻表」を発行していた元祖は(鉄道の国鉄ではなく旅行会社の)日本交通公社であった。現在はこの交通公社版が名前を「JTB時刻表」と変えて、「JR時刻表」と共存して毎月書店や駅売店の店頭に並んで置かれる。中味のなにが違うかということになるが、これがほとんど変らないのだ。JTBは旅行会社だから、時刻表部分もたとえばJRグループだけではなく、私鉄線やバスなどもJR時刻表よりもっと細かく掲載してくれてもよさそうなものだが、その省略ぶりは大同小異だ。これではなんのために両版が並立しているか意味がわからず、JR版があとから登場しただけに、官業が民業を奪った、といわれても仕方ないのではないか。もちろんいまの「JR」は旧国鉄と違い、株式会社なのだからもはや官業ではないということだろうが、それではなんのために「JRグループ」を組んでいるのだろうか。
【それはさておき】
さきほどもちょっと触れたとおり、民営化後の日本の鉄道は縮小の一途を辿った。たとえば北海道などの地方線は、わずか10年か20年ほどの間に、削りに削ったという感じなのだ。地方は過疎化し、大都市それも東京とその周辺のいわゆる首都圏だけは極端に人口が流入して肥大化し、そのバランスが取れなくなっているのがいまの日本だろう。少子化による近い将来の日本の人口減を、いまはまだ走っている地方の在来線がいつまでどこまで持ちこたえられるか、そういうことも併せて時刻表は考えさせてくれる。時刻表は本来の鉄道の発着時刻だけではなく、読物としてもなかなか面白くて利用価値のある情報の宝庫なのである。
【蛇足】
 ついでに手許にある他の時刻表の名称と版型などを簡単にみてみる。
1. JTB時刻表、2000年12月号、JTB発行、B5版、1152頁。JR版と同じような紙質、同じような頁立て、同じような内容そして同じような編集。むしろ後発のJR版が先発のJTB版に似ている、というべきであろう。
2. European Timetable、Thomas Cook発行、1988年8月号、B5版と天地は同サイズだが幅は約30ミリせまい特種版型。528頁。当時のソ連から西ドイツ、ポルトガル・スペインなどの欧州を網羅している、これは「欧州版」。ほかに北米版やアジア版などを欧州赴任時に見たような記憶があるが、定かではない。
3. 全国鉄路旅客列車時刻表、中国鉄道出版社発行、1985年4月発行、B6版、約280頁。この時刻表は、1985年末に社用で中国に出張したとき、北京駅で購入したもの。同行してくれた中国人によると、時刻表は見たことがないと言っていたのに、北京駅に行ったら、たまたま売店で売っていたのでこれ幸いと一冊買ってもらったもの。当時の中国では情報管制が厳しく、鉄道の時刻表なども一般に売り出されてからまだあまり時間が経っていなかった頃だったのかも知れない。日本の時刻表に較べると、版型にして半分の大きさ、頁数も3分の1以下しかないという、あの広い中国の鉄道時刻表にしてこの有様であった。
4. 小田急時刻表、1990年創刊号、小田急電鉄株式会社編集・発行、B5版、約450頁。せっかく上質紙を使っているのだが、惜しいかな活字が小さくて読みにくい。沿線全路線のバス時刻表や、連絡している他社鉄道線の時刻、乗換の案内など、小田急を使う人にとっては必要な情報が盛り込まれている私鉄独自の使いやすい時刻表である。
5. 全国高速バス時刻表&ガイド、1990年夏・秋創刊号、弘済出版社発行、B5版、約230頁。これは全国の「高速バス専用」の時刻表で、長距離バス、深夜バス、ハイウエイバスなどを網羅しているが、ローカルバスは収録していない。上質紙を使い、全国の高速バスの時刻を記載しているので、鉄道に匹敵する長距離のバスの発着時刻を知ることができる。
このほかに、アムトラックだったかが発行していた旅行社向け(ということは、一般に市販していない)アメリカ・カナダの鉄道の時刻表が一冊あったはずだが、整理してしまったらしい。ここに掲載できないのが惜しいところだ。(文中敬称略)□