tokyokidの書評・論評・日記

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書評・数字でみる日本の100年

tokyokid2008-02-13

書評・数字でみる日本の100年・財団法人矢野恒太記念会編・国勢社

【あらすじ】
 この本は、財団法人の矢野恒太記念会が毎年刊行している「日本国勢図会」のいわば姉妹編として、長期の統計を載せている。本評の底本としたのは、改訂第3版・一九九一年発行のものである。初版は一九八一年に発行された。内容は・・・・・、
第1章 領土・国土と国土開発
第2章 人口・労働
第3章 国富・国民所得
第4章 資源・エネルギー
第5章 産業・企業
第6章 貿易・国際収支
第7章 物価・財政・金融
第8章 運輸・通信・マスコミ
第9章 国民生活
第10章  国防
・・・・・の10章からなる。巻末に要を得た「近・現代史年表」が掲載されており、それに加えて全編にちりばめてある解説欄たとえば「北方領土」「OPECとメジャー」「平均寿命」など、および各章の「総論」などは、データを読む上で非常に有用な解説資料である。
【読みどころ】
 この本の特色は、題名にもある「日本の100年」を通観しようとするところにある。ふつう役所でも企業でも、経理処理は単年度が原則であり、それを積み重ねるといっても、せいぜい10年ほどがいいところであろう。それを一世紀にわたってデータを見ることができるところに本書の(他書ではなかなか得られない)価値がある。本書では、前掲の10章がさらに40項目以上に細分されているわけだが、もちろんその中には「100年分」のデータが「全部」揃っているとは限らないものもある。それでも100年を通観しようという基本的な編集態度は、明治維新以降の日本を考察する上では、まことに有用であることに異論はない。
【ひとこと】 
 「百年の計」という言い古された言葉があり、また我が国では「一年の計は元旦にあり」ともいう。将来を見通そうとする者は、過去の実績を無視するわけにはいかない。本書は、誰であれ、日本を一世紀のスパンで見定めようとする者にとっては、よき指針たり続けることと信じる。たとえば「産業のコメ」と称される「粗鋼生産」については、第5章の「産業・企業」のところで明治13年(1880)の日本の粗鋼生産は僅か2千トンであった(表5−53)。一方同じ年のアメリカの粗鋼生産は126万トン、ソ連が30万トン、ドイツは62万トン、フランスは38万トン、イギリスは131万トンであった(表5−59)ことがわかる。当時の日本と欧米の工業力の差は、まさに「3」桁違いであったわけだ。それから僅か61年後、第二次世界大戦前夜の昭和15年の日本は、228万トンに増えていたが、一方のアメリカは6千76万トンであった。二〇〇八年の今日から見て61年前はまさに日本敗戦の年から2年目であった。歴史的な時間軸をこのように認識したうえで、61年間というこの期間内に、日本は粗鋼生産力を114倍に伸ばしたのは事実だが、それでも開戦前夜の比較では、日米間の比較に於いてまだまだ26倍の差が存在した。この歴史上の事実についての見方は、見る人によりけりと思う。ともかく昭和16年(一九四一)の時点では、日本は粗鋼生産量に於いて、アメリカの26分の1しかなかったのにも拘らず、アメリカに(勝てる気で)宣戦布告したのであった。
【それはさておき】
 本書の扉書から引用すると、矢野恒太は一八六六年(慶応元年)生れ、一九五一年(昭和二六年)没。第一生命相互保険会社の創立者で社会教育家、統計学者としても知られる、人であったそうである。保険と統計学は切っても切れない縁があるから、矢野恒太は生命保険会社の創立者としても、この種統計のデータ編纂者としても、理想的な人であったのだろう。そのことは本書をひもとくことによって、ただちに理解することができる。□